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特集・コラム

3軸貨車は3度死んだ…? 2軸でもボギーでもなかった「愛すべき中途半端」貨車

2023.01.28

text:RMライブラリー編集部

 現代における日本の貨物列車は、ほぼボギー貨車によって行われていると言っても過言ではありませんが、ちょっと前までは「ワムハチ」として親しまれた2軸有蓋車・ワム80000形も普通に見ることができました。すなわち貨車と言えば4軸か2軸…その中間となる3軸の貨車ってなかったのかな?とふと疑問に思ったりしたことはないでしょうか。はい、実は歴史上は3軸貨車というのは意外に多数が製造されたのですが、現代では絶滅して久しい形式となっています。なぜ絶滅したのか…ということを調べ始めると、なんとこの3軸貨車、「3度も死んだ」と言える状況のようなのです。

最初に「死んだ」のは昭和戦前期

タサ1形タサ15。P:久保 敏

 大正時代を中心に普及したのが3軸のタンク車でした。後のタサ1形となるフア21000M44形は1914(大正3)年から100両が製造されています。3軸を採用した理由は荷重を増やすためで、それまでの2軸貨車での最大荷重が12トンであったところ、実に20トンと、6割以上増しとすることが可能になったのです。この時代、まだ貨車のボギー化が進んでおらず、「2軸貨車を大型化する」ために3軸化したというのが実情でした。

 石油類を中心に幅広い積荷に応じて多数の形式が登場して隆盛を誇りましたが、一方で機関車の大型化・高速化が進むと3軸貨車の走行性能の低さがクローズアップされるようになります。鉄道模型で想像すると分かりやすいと思いますが、3軸の車軸が曲線に掛かった時にどうなるか…一応中間軸は横動が利くようになっているのですが、前後軸は回転はしないですからね…。そこでなんと1936(昭和11)年度以降、3軸貨車は新製が禁止されてしまうのです。これが最初の「死」ですが、既に完成していた車両はその後戦後期まで長く活躍したものもおりました。

思わぬ復活と二度目の「死」

2000年にJR東海浜松工場で復元されたトキ900形4837。P:RM

 新製が禁止されたはずの3軸貨車、案外早く「復活」します。時は太平洋戦争の時代。戦時輸送対策として3軸の無蓋車トキ900形が1943年に登場し、実に8,000両余りが製造されました。戦争というのはどうしても「質より量」…というのを物語る政策の転換と言えるでしょう。従来のトラ車と同じ全長ながら側板・妻板の高さを大幅に高め、2階級上のトキ級とした上で軸重を分散させるために3軸化…という成り立ちです。

 戦争が終わるとやはり走行性能の低さもあり、長物車に改造されたり部品単位で他の形式に流用されたりで急速に数を減らし、1959(昭和34)年度までに全廃されました。「戦争の申し子」は平和日本には居場所を見つけられなかった…これがいわば二度目の「死」となります。

3軸貨車にもう一度光を…しかし試みは実を結ばず

1980年に、ワサ1形ワサ2が営業貨物列車に連結されているという貴重なシーン。P:酒井和弘

 もう二度と3軸貨車が誕生することはないだろうと思われていましたが、昭和30~40年代にかけて復権の試みが2形式ありました。

 ひとつがパレット用有蓋貨車のワサ1形です。写真でご覧の通り、ワム80000形そっくりですが車体は少し長く、そして中央部にもう1軸が設けられています。この形式が登場した経緯をざっくりいうと、パレット式として使用する場合の荷重は17トン、パレットを使用せずバラ積みする場合の荷重を23トンとするため。15トン積みのワム80000形はパレットを使わない場合には20トン分を積める容積がありましたが、それをすると2軸では軸重過大となるため、3軸化してみた…というわけです。二段リンク式軸受を採用し、走行性能も時代相応に高められていたようですが、本格採用には至りませんでした。

 もうひとつは完成した自動車を運ぶ車運車のク9100形です。こちらは極めて珍しい2車体連接の3軸貨車で、全長はボギー車のク5000形も上回り、1500㏄クラスの乗用車を10台積載することが可能でした。残念ながら1両のみの試作に終わっています。

 ワサ1形2両のうち、最後まで残っていたワサ2が国鉄最末期の1987年に廃車。これこそが3軸貨車3度目の「死」であり、残念ながらさすがにもう二度と誕生することはなさそうです。

 ここで紹介した3軸貨車の歴史は、敢えて少々乱暴に歴史を俯瞰したもの。ちょっとでも興味を持っていただけた方にはぜひRM Re-Library第9巻「3軸貨車の誕生と終焉」(吉岡心平さん著)をお勧めしたいと思います。故・吉岡さんが貨車に興味を持つきっかけとなったのが、北海道で最後に活躍していた3軸のタンク車だった…というお話もあります。たっぷりの愛情と、極めて精緻な研究の成果として、2000年刊行のRMライブラリー8・9巻としてまとめられていましたが、この度合本の上で復刊となったものです。

 お値段は上下2冊分の合算分となる2,200円(税込)、つまり据え置きながら、巻頭には新規頁としてグラフも追加。1冊にまとまったことで利便性も増しています。

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