取材日:’21.4.15
text & photo(特記以外):羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル 取材協力:天竜浜名湖鉄道
レイル・マガジンで好評連載中の「シーナリー散歩」。全国の鉄道路線を訪ね、思わず模型にしてみたくなるような魅力的なシーナリーを見つけてご紹介しております。2021年7月号では天竜浜名湖鉄道の前編として天竜二俣駅を取り上げ、WEB編でもここまで3回にわたって駅施設および運転区の模様を見てきました。今回は同駅の最終回として、扇形庫に併設の鉄道歴史館と、気動車の車両基地としての給油施設などを紹介してまいります。
▲鉄道歴史館には、所狭しと貴重なヘッドマークや、なんと「空襲警報発令」の札などが展示されている。
扇形庫正面向かって左手の、かつて「工作室」であった部分が鉄道歴史館として見学ツアー参加者に公開されています。工作室とは、旋盤や加熱炉を備えて車両部品の補修や場合によっては新製まで行っていたところ。前回記事ではこの部屋から庫内まで手押しトロッコ用の線路が敷かれていたこともご紹介しました。建物の外観には手が加えられておらず、室内も展示品の配置にこそ配慮があれど、間取りなどは当時のままのようです。
▲この「しんじょはら」の駅名板、映画の中に出てきたような…。もちろん国鉄時代のもので、現在は新所原と知波田の間に2駅新設されている。
話が少々脱線しますが、この天竜二俣駅付近は、今年公開されたアニメ映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で描かれた「第3村」のモデルとなりました。実際に庵野秀明総監督が数度にわたってロケハンにも訪れたとか。劇中の世界では鉄道(天竜浜名湖鉄道の車両ではなく、JR西日本っぽい車両が描かれていました)はもう動いておらず、廃墟となった建物に生き残った人たちが集まって生活している…という描かれ方でしたが、ワンシーン、この歴史館の入り口上部に掲げられた国鉄時代の「しんじょはら」駅名板が大写しになっていましたね。つまりそのシーンは、この鉄道歴史館の部分が舞台であったのです。
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▲当時からこの場所に設置されていた加熱炉。
▲かつては一部の部品はこの旋盤で自力調達していたのだ。
▲両引き鋸の展示。工作机には万力も設置されている。
歴史館としての展示は、まず工作室としての施設がそのままの位置で残されているもの。加熱炉(鉄を加熱して叩いて成型する時に用いる)、旋盤、ボール盤、万力を備えた工作机、木材を二人がかりで切断する時に用いる両引き鋸などがそれにあたります。
▲駅長室を再現した一角。TV番組ロケの記念品なども多数展示。
▲金指駅にあったタブレット閉塞機。
▲天竜二俣駅のCTC制御盤(一世代前のもの)。奥のガラス戸の向こうは扇形庫内。
次に、かつての駅舎内の各種設備類の展示。一角が駅長室らしく整えられ、鉄道電話やダッチングマシーン、硬券発券機、タブレット閉塞機、CTC制御盤などが陳列されています。
▲博物館ではないので体系だった展示とはいかないが、身近なものから、馴染みは薄いものの現場では大切にされたものまで、様々な収蔵品がある。
また、国鉄時代の駅名板やヘッドマーク、ポスター類など身近なものや、大型の蒸機模型、ジオラマ類まで各種収蔵されており、何度でも訪れてみたくなる内容だと感じました。
▲気動車留置線。
▲上写真の奥側から振り返ってみたところ。2線にピットがあり、右手の線路には壁無しの屋根が架けられている。
最後に、気動車の留置線と給油・洗車施設などを見ておきましょう。屋外にもピットが掘られた留置線が2線あり、うち1線には壁無しの屋根が架けられています。給油機はその屋根のある線に面して設置されており、片流れのスレート屋根の下にシンプルな形状のものが1基となっています。燃料タンク自体は地下に設置されており、自動車用などと違って給油量のメーターのようなものは特に見受けられません。この一角だけを切り取ったミニジオラマを製作してみたいとも思わせる情景でした。
▲小規模で簡素な給油機。注意表示なども模型製作の参考にしていただきたい。
▲自動洗車機は、現在は日常的には使用されていないようだ。
その先に自動洗車機も設置されていますが、お聞きしたところでは日常的な洗車では実はあまり使っていないとか。どうしても洗い残し部は手洗いする必要があり、であれば前回ご覧に入れた洗車線で最初から全体を手洗いした方が一度で済む…というお話でした。ただ、イベント時に来場者の洗車機体験では人気なのだとか。
▲イラスト:遠藤イヅル
これにて、天竜二俣駅とその併設運転区のお話は終わりとなります。次回からは、天浜線の他の駅や施設を順番に見ていきましょう。