取材日:’21.2.25
text & photo(特記以外):羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル
レイル・マガジンで好評連載中の「シーナリー散歩」。全国の鉄道路線を訪ね、思わず模型にしてみたくなるような魅力的なシーナリーを見つけてご紹介しております。発売中の2021年5月号で取り上げた銚子電鉄を、このWEB編では外川駅から順に上り方向へと進み補完しております。今回は前回の笠上黒生駅につづき、本銚子(もとちょうし)・観音(かんのん)の2駅を見ていきましょう。
▲切り通しの中の静かな環境にある本銚子駅。
●本銚子駅(上り調子 本調子 京葉東和薬品 本銚子駅)
読み方は「ほんちょうし」ではなく「もとちょうし」。ネーミングライツは千葉市の(株)京葉東和薬品が取得しており、愛称名はそのよくある誤読に引っ掛けたキャッチフレーズになっています。車内アナウンスでも調子よく読み上げられているのは必聴です。
▲愛称名が記された駅名板。
切り通しの中にある静かな駅で、鬱蒼とした林に包まれ、「緑のトンネル」の中を行くようだとして近年は撮影ファンにも有名。取材日は幸い晴天で、上り列車がゆらゆら近づいてくると木漏れ日がチラチラ反射して幻想的な眺めでした。木の枝が電車の運行に支障ないよう、定期的に伐採が行われているとのことです。
▲駅に近づいてくる銚子行き上り電車。空が見えないくらいに木々に覆われていることがわかる。
▲駅の下り方(外川方)に架かっている跨線橋から見下ろしたところ。
駅は線路に並行する上り勾配のついた道路から脇にそれた、線路脇の狭い敷地に設置されています。1面1線の棒線ホームで、駅舎は比較的簡素かつ小ぶりな切妻の建物。入口に面した側にかつて有人の出札口があり、ホーム側に回り込むと待合室があるという様式です。
▲かつての様子を知っているとずいぶんなイメージチェンジと感じる駅舎。
▲待合室の中は大正時代の洋風建築をイメージしているようだ。
▲待合室の壁面にはめ込まれたステンドグラス。
近年TV番組とのタイアップでタイル模様の外壁やステンドグラスをあしらった待合室にイメージチェンジされていますが、大元の建物は1923年開業時のものそのものとなっています。
●観音駅(金太郎ホーム 観音駅)
駅名の「観音」とは、駅近くにある飯沼観音=円福寺を表しており、古くからの門前町として栄えた街中にあります。ネーミングライツは千葉市のマンション施工会社である(株)金太郎ホームが取得しており、ストレートに社名を愛称に取り入れたものとなっています。
▲スイス登山鉄道風とされる、三角屋根が特徴の観音駅。
▲本来のネーミングライツとしては最も典型的でストレートな愛称名ながら、他の駅ではあまり見られないもの。
ここは犬吠駅の回でも触れたように、以前の親会社、内野屋工務店時代の1991年に駅舎を完全に建て替え、スイスの登山鉄道風とされる三角屋根が印象的なものとなっています。またその駅舎規模も観光施設を兼ねた犬吠駅を別格とすれば路線中随一と言えるでしょう。入口は2本の尖塔の間のアーチ門をくぐる感じで、そのアーチをくぐったすぐ右手のところで、かつては名物のたい焼き販売が行われていました。
▲入口アーチ奥の右半分が、かつてのたい焼き販売窓口。
▲入口からホームまではスロープが設置されている。
▲たい焼きを大いにアピールしていた看板だが、既にその部分は文字と絵柄が剥がされている。
そう、今は「ぬれ煎餅」が銚子電鉄の名物菓子で、首都圏のコンビニなどでも販売されているのを見かけますが、かつてはこのたい焼きこそ銚子電鉄の名物で、なんと1976年のヒット曲『およげ! たいやきくん』にちなんでの営業開始だったとか。ただたい焼きは日持ちがせずまた量産にも向かないからか、2017年に当駅での販売を終了。今は時間帯を限定して犬吠駅での販売が行われています(社員による販売ではなく、地元障碍者施設に業務委託)。
▲駅ホームから外川方を見る。ホームはタイル張りで、改築時に嵩上げを兼ねて改修されたようだ。
▲駅横の踏切を行く外川行き電車。通りは銚子市の古い繁華街だ。
駅舎こそメルヘンチックなデザインですが、銚子の繁華街の一角、踏切脇に溶け込むようにそこにある風情は、今となっては他ではそうそう見られないと感じます。当駅からさらに上り方向の2駅、仲ノ町と銚子はまたそれぞれ別の雰囲気であり、路線中唯一「町中にある駅」と言っても良いでしょう。かつての地方私鉄の活気あるシーンの残り香が、ここでは感じられると言ったら情緒的に過ぎるでしょうか。