取材日:’20.11.30
text & photo (特記以外): ふくしま・さぎす
2020年11月30日、徳島県海部郡の海部(かいふ)駅と高知県安芸郡の甲浦(かんのうら)駅を結ぶ阿佐海岸鉄道で、DMV(デュアル・モード・ビークル)化にともない従来の鉄道車両での運転が終了した。今回は阿佐海岸鉄道の近況と、最終日の様子をレポートしていく。
▲阿佐海岸鉄道自社発注車両のASA-100形
阿佐海岸鉄道 宍喰~甲浦
■DMV化により阿佐海岸鉄道延伸?
2020年11月30日まで、JR牟岐(むぎ)線牟岐駅~阿佐海岸鉄道海部駅で代行輸送を実施しており、阿佐海岸鉄道は代行バスで牟岐線と結ばれている状態だった。これは、DMVのモードチェンジを行う設備を阿波海南に設置するためであり、牟岐線の阿波海南(あわかいなん)~海部間は鉄道事業廃止届を提出し、阿佐海岸鉄道に編入された。
これにより、12月1日以降阿佐海岸鉄道と牟岐線の接続駅は海部駅から阿波海南駅に変更となっている。
●11月30日までの周辺路線図
●12月1日以降の周辺路線図
🔶詳しくはこちら「JR四国、牟岐線阿波海南~海部間の鉄道事業廃止届を提出」
そのため、12月1日からは阿佐海岸鉄道の代行バスと、JR四国の代行バスの乗換が阿波海南駅で発生している。なお、牟岐~海部間の列車運行は7月18日に終了している。
- 牟岐駅に到着した牟岐~海部間の代行バス。
- 阿波海南駅に設けられた12月1日からの運行情報。
- 海部駅に到着した代行バス。
- 牟岐線の阿佐海岸鉄道への移管区間を行くJR四国1500形 ‘20.7.17 牟岐線 海部~阿波海南 P:松原政明 (鉄道投稿情報局より)
■DMVとは?
名前の由来はDual Mode Viecle の頭文字をとったもので、線路走行用の鉄車輪と道路走行用のタイヤの二つが装備されており、専用の設備を用いたわずか15秒ほどのモード・チェンジを行うことで、線路と路上の双方を直通運転することが出来るようになっている。
しかし、DMVが走行する路線では、DMVの重量の関係から信号設備をすべて専用のものに更新する必要があるため、通常の鉄道車両とDMVの線路共用はできなくなる。
そのため、DMVの対応工事に伴う長期運休開始に合わせて従来の車両は役目を終えることとなった。
▲DMVのモードチェンジイメージ(阿佐海岸鉄道プレスリリースより)
■DMV化に向けて工事が進む甲浦駅と阿波海南駅
DMVのモード・チェンジ設備の設置場所となる甲浦駅と阿波海南駅では、それぞれ工事が進んでいる。特に甲浦駅は、かつては高架橋がバッサリと切られたような見た目で知られた駅だが、DMVが地平に降りるためのスロープが設けられているなど、その姿を大きく変えている。
▲DMV用のスロープが建設され、特異な構造となった甲浦駅。
- DMVのモード・チェンジに用いられる設備。
- DMV用のスロープが取り付けられた甲浦駅。
- 駅舎を取り囲むように作られたスロープ設備。
■阿波海南駅
先述したが、12月1日以降、阿波海南駅が阿佐海岸鉄道と牟岐線との接続駅となっており、ここにDMVのモード・チェンジ設備が設置されている。
なお、11月30日時点で、阿佐海岸鉄道のモード・チェンジの設備と牟岐線の線路は、すでに接続が切られていた。これは先述の通りDMV化後は、普通鉄道車両との線路共用が不可能となるためであるが、まさにそれを象徴するような光景といえよう。
▲右の車止めが牟岐線のもの。左に見えるレールが阿佐海岸鉄道のものとなる。(許可を得て撮影)
- JR四国牟岐線の阿波海南駅。現在は立ち入り禁止となっている。
- 阿波海南駅のモード・チェンジ設備(許可を得て撮影)
- モード・チェンジ設備はDMVの内側の鉄輪を降ろすための設備のため、線路の外側にガイドウェイが設けられている。(許可を得て撮影)
- 海部方面を望む。DMV化後は、この区間はDMVのみ運行可能となる。(許可を得て撮影)
- 阿波海南駅に隣接して建てられた駅前交流館。
■阿佐海岸鉄道ASA-100・300形最後の日
11月30日、次の日より開始となるDMV対応工事に伴う長期運休開始に合わせて、阿佐海岸鉄道のASA-100形とASA-300形は運行を終えることとなった。本日はそのタイミングもあって、レイル・ファンと思われる姿が複数見られた。
車内に入ると、山側の窓いっぱいにメッセージが掲げられていた。海側の座席は埋まっていたものの、山側は空いており適当な席に座るとすぐに列車は発車した。
▲海部駅に停車中のASA-100形。
阿佐海岸鉄道 海部
▲車内いっぱいに掲げられたメッセージ。地元に愛されていた車両であることがよくわかる。
阿佐海岸鉄道 車内にて
- 引退に合わせて正面に掲げられていたHM
- こちらも引退に合わせて掲げられた記念サボ
- 「しおかぜ」の文字と記念サボ
- 特徴的な窓の形
- ASA-100形の形式・製造銘板
- ASA-100形の検査標記
- ASA-100形の台車
- 車両の中間部分に設けられた転換クロスシート
- 前後の車端部はロングシートとなっている。
- 宍喰駅に設けられたカウントダウンボード。その数字はこの日「0」となった。
- 甲浦駅に掲げられた横断幕。各駅に掲げられているものと同じ。
■室戸岬を目指した阿佐線の一部
列車は発車するとすぐにトンネルに入った。列車は直線的な線形を唸りを上げながら進み、本鉄道唯一の中間駅、宍喰(ししぐい)駅に到着した。この駅も高架駅となっている。線内の全駅が高架駅と聞いて、なんとも高規格な設備だと思ったのもそのはず。かつて、阿佐海岸鉄道は国鉄阿佐線として計画され、室戸を経由して現在の土佐くろしお鉄道に接続する壮大な計画の一部であった。
本路線は、日本鉄道建設公団によって建設が進めてられていたが、国鉄の経営悪化により建設が中止された。そのうち海部~甲浦間は建造物の大半が完成していた区間で、1991年に第三セクターの阿佐海岸鉄道として開業した。そのため、全線が高架・築堤となっているなど、鉄建公団建設線の特徴的な構造が見られる。
また、DMV化後は休日に室戸岬方面への乗り入れも計画されており、阿佐線の東半分はこのDMVによって補完されるともいえよう。
- 唯一の中間駅である宍喰(ししぐい)駅
- 宍喰駅の階段から見える阿佐海岸鉄道の高架橋。写真からもその高さがうかがえる。
- 線形は直線的で短いトンネルをいくつもくぐり抜ける。
- トンネルの合間から海が見える。
■阿佐海岸鉄道の救世主
阿佐海岸鉄道では、事故廃車を補うため宮崎県の高千穂鉄道から譲渡されたASA-300形も走っていた。最終日、乗車することが叶わなかったが、紹介したいと思う。
▲高千穂鉄道から譲渡されたASA-300形
’20.11.16 阿佐海岸鉄道線 海部 P:桑原健人
- ASA-300形の車内。 ’20.11.16 阿佐海岸鉄道 甲浦 P:桑原健人
- 引退に合わせて掲げられたサボ ’20.11.16 阿佐海岸鉄道 甲浦 P:桑原健人
- 「阿佐海岸鉄道」の下に残る「高千穂鉄道」の文字。’20.11.16 阿佐海岸鉄道 甲浦 P:桑原健人
この日の最終便では地元住民を中心としたお見送りイベントが開催され、地元の人に愛されながらASA-100形、ASA-300形は静かにその役目を終えた。
四国の片隅を走る鉄道のバトンをDMVに託して。