185系

特集・コラム

出雲市16:00発→大阪駅翌6:12着「WEST EXPRESS銀河」一番列車乗車記Vol.3

2020.09.25

text&photo(特記以外):ユージ

▲松江駅に到着した「WEST EXPRESS銀河」と「まつえ若武者隊」のツーショット

■「WEST EXPRESS銀河」、上り列車発車!
 出雲市駅は一日中雨が降っていて、ジメっとした空気がホームを包んでいた。しかしそんな天気とは裏腹に、ホーム上には上り一番列車の姿を収めようと多くの地元メディアが来ており、大きな盛り上がりを見せていた。強めの雨の中、「WEST EXPRESS銀河」は多くのギャラリーに迎えられながらホームに滑り込んできた。4号車のドアが開き、乗客は皆そこから乗り込む。16:00ちょうど、多くの人に見守られながら出雲市駅を出発した。いよいよ大阪への14時間近くの復路の旅が始まった。

■「まつえ若武者隊」参上!
 列車は宍道湖を横目に走り、宍道、玉造温泉と停車し松江に到着した。松江では30分ほど停車時間が設けられている。ホーム上では普段松江城を拠点に活動している「まつえ若武者隊」の方たちが出迎えてくれた。ポーズをとってくれたり、記念写真を一緒に撮ってくれたり、気さくに話してくれたりと、楽しい時間を過ごすことができた。

▲「WEST EXPRESS銀河」の前でポーズをとってくれた。

 松江を出ると、米子に停車し伯備線に入った。だんだん空が暗くなり、列車は夕暮れの中国山地の山々の間を縫うように進んでいった。

■夜の伯備線でのおもてなし
 根雨(ねう)駅には18:25に到着。雨の中、地元の日野町の方が迎えてくれた。30分ほどの停車時間中に、駅舎の中で特産品のしいたけや金持神社の金運向上グッズの販売などが行われ、たくさんの人で活気づいた。

▲根雨駅では地元、鳥取県日野町の方が出迎えてくれた。

 根雨を出ると、列車は伯備線をひたすら南下した。夜の伯備線は山あいを走るため人家はまばらで、たまに通過する駅の明かりが車窓を照らすのみだった。

▲駅の光に照らされながら進む「WEST EXPRESS銀河」。

’20.09.12 伯備線 井倉 P:田中瑛三(今日の一枚より)

■備中高梁駅の奇跡
 雨も上がった21:25、備中高梁(びっちゅうたかはし)駅に到着した。この駅は35分停車となっており、上り列車の大きな見どころとなっている。ホームに降りて改札を抜けると、歓迎セレモニーと、国指定重要無形民俗文化財の備中神楽の演舞が行われた。

▲備中高梁駅では、備中神楽の演舞が行われた。きりっとした動きや、その迫力に思わず見入ってしまった。

 このほかにもう一つ大きなイベントを、この駅では見ることができる。「WEST EXPRESS銀河」大阪行きが、「サンライズ出雲」東京行きの待避をする。つまり当駅で追い抜かれるため、駅ホームで並ぶ瞬間があるのだ。電光掲示板に列車の表示が並ぶと、夜行列車同士が並ぶ光景を一目見ようと、多くの人がホームに向かった。

▲「サンライズ出雲」と「WEST EXPRESS銀河」の表示が並ぶ。

 ホーム上にはすでに大勢の人がカメラやスマホを片手にその時を待っていたが、定刻になっても到着しないため、皆時計をチラチラと見ていた。しばらくすると、285系の特徴的な車体がホームに滑り込んできた。雨の影響で定刻より少し遅れての到着だった。先頭車同士の並びを狙おうと、カメラのシャッター音が鳴り響いた。
 下り列車の姫路駅でもこの並びは見られたが(それはダイヤ乱れによるイレギュラーでの状況)、夜行列車に親しむ機会が少なかった私にとって、夜行列車同士の並びは特別なものに感じられた。「サンライズ出雲」は乗客を少し乗せるとすぐに発車して、夜の闇の中に消えていった。

▲夜の駅に並ぶ、二つの夜行列車。ダイヤ設定の妙で、大変興味深い光景が、この令和の時代に見られるとは。

 イベントはまだ終わりではない。なんと、運行初日の本日に限り「WEST EXPRESS銀河」と同形式の117系(普通列車用)とを並べるという粋なイベントが催されたのだ。到着した瀬戸内地域色の黄色い117系には、「おめでとうWEST EXPRESS銀河」と書かれたヘッドマークが掲出されており、側面のガラスにもメッセージが掲げられていた。思いもよらないサプライズにホームは歓喜に包まれた。

▲今夜限りのスペシャルサプライズ! 117系同士が並ぶ貴重な光景を見ることができた。

▲オリジナルヘッドマークを掲げた117系。岡山地区を走る瀬戸内地域色の黄色一色仕様である。

 歓喜に湧く備中高梁をゆっくりと出発すると、途中の岡山で乗務員交代を行い、山陽本線に入っていった。私は貸切状態の深夜のフリースペースで前面展望を楽しみながら晩酌をしていた。「WEST EXPRESS銀河」で過ごすこの旅最後の夜だ。京都駅から始まったこの旅も、明日の早朝には終わりを迎えてしまう。そう思うと寝てしまうのがとても惜しくなってきたが、無慈悲にも睡魔が襲ってきた。夜行列車に乗るといつもそうなのだが、「寝ないともったいないが、寝るのももったいない」…そんなジレンマに苛まれながらも、眠ることにした。

 今夜も私の枕元には117系特有のモーター音が響き渡っていた。

▲備中高梁駅で配られた夜食の鮎弁当と、出雲市駅で買ったビールで晩酌。

■終着駅、大阪へ
 朝5:20ごろ、大久保駅を出たあたりで目が覚めた。「WEST EXPRESS銀河」の旅もあと少し。曇り空の中、ぼんやりと明るくなった外には明石海峡大橋が見えた。瀬戸内海を横目に明石海峡大橋の下をくぐり抜けてしばらくすると、車掌の「おはようございます、本日は9月13日日曜日、時刻は…」から始まる夜行列車特有の朝のアナウンスが流れた。

▲西明石からの複々線区間を軽やかに駆けていく。

 列車は早朝の静かな駅を通過していき、定刻通りに神戸、三ノ宮と止まり、次は終点の大阪に着くのみとなった。この旅がもう終わってしまういう寂しさと共に、また乗りたいという思いが込み上げてきた。塚本信号場を過ぎたあたりで大阪駅到着前のアナウンスが流れた。淀川鉄橋を渡ると、だんだん列車が減速していくのがわかった。
 6:12。定刻通り大阪に到着。楽しい夜行列車の旅が終わってしまったという寂しさと共に、一連の旅が夢だったのではと思うそんな気持ちもあった。そんな旅の思い出の詰まった「WEST EXPRESS銀河」は、朝の忙しさに押されるように車庫へと帰っていった。本当に夢のような時間だった。

▲一番列車という大仕事を終え、向日町操車場へ帰る「WEST EXPRESS銀河」。

‘20.9.13 東海道本線 島本~山崎 P:岡部皓輝(今日の一枚より)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加