電車のエネルギー源は電気であるから「電池」を用いて電車を走らせよう、という考えはごく自然といえる。しかし、電車の運転のためには、短時間で大電流を放電できる性能が必要であるだけでなく、高い安全性も求められるのが現実である。また、大容量電池として実用化されたリチウムイオン電池も、初期には発熱・発火、爆発などのトラブルが発生していたため、公共交通機関にはとても使用できない技術だった。そのため、電車のような分野に適した電池は自動車用充電池の開発を待つこととなった。自動車分野においては、短時間で充電が可能で、大電流を発生させることができる蓄電池の開発はハイブリッド車の開発に欠かせない技術であった。2000年代にリチウムイオン電池が自動車分野で急速に普及すると、鉄道分野においてもハイブリッド式車輌、蓄電池式車輌に応用されることとなった。
▲蓄電池電車”スマート電池くん” 屋根上の蓄電池を撤去してパンタグラフを搭載。また、車内に大容量の蓄電池を搭載し、窓が埋められた。 ’12.12.21 東北本線 宝積寺〜岡本 P:松沼 猛
JR東日本は2009(平成11)年にシリーズ式ハイブリッド車の試験車として試験を行ってきたE991形NE Trainを蓄電池電車に再改造した。改造に当たっては、新たにパンタグラフを設置し、車内に大容量の蓄電池を搭載した。目標とする航続距離は平坦な線区で駅停車時の電力消費を含まずに50kmとされた。改造後、試運転後に新製車扱いで車籍が与えられ2010(平成22)年に小山車両センターに配置。非電化区間や急速充電設備での試験を行った。その試験の成果により、蓄電池電車第1号となるEV-E301系が登場した。
また、本車両は前項目で述べた通りシリーズ式ハイブリッド車の試験も行っていた。試験車として非電化区間の最先端を走ってきた本車両の功績は大きいといえよう。
▲急速充電の試験の様子 烏山駅では急速充電の試験を行った。急速充電設備は仮設で、場所も現在とは異なり剛体架線も短かった。 ’12.12.21 烏山線 烏山 P:松沼 猛
本文:児玉光雄 要約・再構成:RM レイル・マガジン433号より