▲夕暮れの商店街の向こうをゴトゴトと、ポールを掲げた単車が行く。そんな光景が再現された愛媛県立歴史文化博物館の館内。 P:宮武浩二
伊予鉄道の復元車と言えば、大半の方が市内を走る「坊ちゃん列車」を思い浮かべそうですが、市内線用木製単車12号の復元車があることをご存知でしょうか。場所は愛媛県立歴史文化博物館。残念ながら「坊ちゃん列車」のように実際に線路を上を走るものではありませんが、その再現度は思わず目を見張るほどです。RMライブラリー202『琴平参宮電鉄』の著者である宮武浩二さんが現地を訪ねられたのでご紹介しましょう。
▲復元された伊予鉄12号の全景。カットモデルのような部分的なものではなく、車体全長、ポールから台車まで全体が再現されている。 P:宮武浩二
▲白熱電球による照明が美しい車内(左)とシーメンスの銘が輝く制御器(右)。 P:宮武浩二
まず、実物の伊予鉄道12号について簡単に説明しますと、伊予鉄道が1923(大正12)年に自社工場で製造した7〜16号のうちの1輌で、台車はブリル、電機品はシーメンス製です。松山市内線にボギー車が入ったのは遅く1951(昭和26)年になってからで、それが現在も活躍している50形です。その増備とともに単車は順次引退していき、12号も1962(昭和37)年に廃車となりました。
それから約半世紀の時を隔てて復元された12号ですが、一見「これは実物?」と思ってしまうほどの再現度です。全体のプロポーションや白熱電球による照明が美しい車内はもちろん、よくよく覗き込まないと気づかないような台車もちゃんと21Eが再現されていますし、軸箱にはブリルの銘まであります。この復元車が展示されているのは博物館内の歴史展示室4「愛媛県の誕生と歩み」と題するゾーンで、昭和初期の松山市内、大街道付近を実物大で再現した一角。商店越しに見える電車の姿は実によい雰囲気です。
▲二段屋根の窓にはイの字が四つの伊予鉄の社章が。 P:宮武浩二
さて、この愛媛県立歴史文化博物館ですが、松山市内ではなく、宇和島市の北隣に位置する西予市宇和町卯之町にあります。最寄り駅の予讃線卯之町駅は松山から特急でも約1時間かかる場所ですから、ちょっと松山観光のついでに...というわけにはいきませんが、路面電車ファンには一見の価値があるものと思いますので、四国周遊の際に訪れてみてはいかがでしょうか。