text & photo:RM
取材日:’22.2.18 場所:鎌倉車両センター中原支所
取材協力:東日本旅客鉄道
JR 東日本が2022年3月より鶴見線・南武線において実証試験を開始する水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI」。同車は水素を燃料とする燃料電池を搭載しています。既に燃料電池は乗用車やバスによって実用化されていますが、より高出力が求められる鉄道への適用ということで、世界的に注目されている技術分野です。
▲1号車・FV-E991-1側から見た編成。
■燃料電池ハイブリッドシステムの仕組み
(公式パンフレットより)
燃料電池の基本的仕組みは、水素タンクに充填された水素が燃料電池装置へ供給され、空気中の酸素との化学反応により発電するというもの。この電力を電力変換装置(VVVFインバータ制御装置)に送り、通常の電車と同じようにモーターを駆動させて走行します。発電時に発生する副産物は水だけ(水素と酸素の化学反応により発生するH2O)であり、二酸化炭素のような有害な物質は生じないことで、究極のクリーンな動力源とも目されているのです(水素製造時の二酸化炭素発生という問題はここでは置きます)。
▲トヨタ自動車が製作を担当する燃料電池。
水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI」の燃料電池稼働実演です。 pic.twitter.com/250ZG1XG6t
— Rail Magazine(レイル・マガジン)【公式】 (@RM_nekopub) February 18, 2022
また、大容量の主回路用蓄電池を持ち、燃料電池装置からの電力とブレーキ時の回生電力が充電されます。ハイブリッド駆動システムは燃料電池装置と主回路用蓄電池の両方からの電力を主電動機に供給し、車輪を動かす制御を行う仕組み。ここで言う「ハイブリッド」とは、「燃料電池」と「蓄電池」の両方の動力源を持っていることを示しています。
▲室内車端部のモニターに、エネルギーフローが表示されます。
余談ですが、トヨタ製の燃料電池乗用車「MIRAI」や燃料電池バス「SORA」には大容量蓄電池と充電システムは搭載されておらず単なる燃料電池自動車であって、ハイブリッド式ではありません。今回、燃料電池装置の開発はトヨタ自動車が、ハイブリッド駆動システムの開発は日立製作所が担当しています。
▲トヨタ自動車製の燃料電池バス「SORA」。P:羽山 健
■走行に関する主要機器
(公式パンフレットより)
(1) 水素貯蔵ユニット…燃料となる水素は、2号車(FV-E990-1)の屋上に搭載された水素貯蔵ユニットに充填されます。水素タンク5本を一組として固定バンドでユニットフレームに固定し、これを4ユニット(水素タンク合計20本)搭載。
▲2号車屋上、写真で中央と右手の大き目の箱が水素貯蔵ユニット。左手の小ぶりな屋根上配管ユニット。
(2)屋根上配管ユニット…水素貯蔵ユニットから供給された高圧水素を、燃料電池装置の稼働に適した圧力に減圧する装置で、やはり2号車の屋上に搭載されています。
▲2号車床下の床下配管ユニット。
(3) 床下配管ユニット…屋根上配管ユニットから送り込まれた水素を燃料電池装置に供給するための配管系統を主としたユニット。2号車の床下にあり、このユニット内に水素充填口もあります。
▲2号車床下の燃料電池装置。
(4) 燃料電池装置…2号車の床下の大き目の装置2組がそれで、1箱の中に燃料電池2個がまとめられています(計4個)。1個あたりの出力は60kW。
(5) 電力変換装置(コントロールユニット)…VVVFインバータ装置と補助電源装置を小型化することで一体箱に収納したもの。1号車(FV-E991-1)床下で最も大きな箱がそれ。
▲1号車床下の主回路用蓄電池。
(6) 主回路用蓄電池(バッテリー)…1号車床下に2組搭載されています。
■水素の充填について
燃料となる水素は定期的な補充が必要ですが、それを2種類の方法で行い比較検証します。容量一杯まで充填できる「70MPa水素充填」は、移動式水素ステーション(トラックに装備)を使用する方式で、充填量は約40kg、航続距離は約140km、場所は扇町駅。
もうひとつの「35MPa水素充填」は短時間で充填可能だが充填量・航続距離は共に半分の約20kg、約70kmとなります。場所は鎌倉車両センター中原支所および鶴見線営業所(弁天橋駅最寄り)。
▲車内のモニターに表示されるエネルギーフロー。
(公式パンフレットより)
■異常時の水素放出について
水素タンクの周辺温度が異常に上昇した際、自動的に水素を大気に放出して拡散させる仕組みを持っています。放出口は屋根上でその位置や角度は十分安全に配慮したものとなっています。
▲2両とも車端部に機器室があり、その一角に高圧ガス用消火器が備えられています。
■実証試験について
(公式パンフレットより)
2022年3月下旬より、南武線(川崎~登戸)、鶴見線、南武線尻手支線にて実証試験が行われます。試験内容は、車両性能、水素燃料電池と蓄電池のハイブリッド制御、水素消費量測定、水素充填方法の検証などです。
なお、本試験の実施にあたっては、神奈川県、横浜市、川崎市の協力によって環境整備が行われたそうです(そのため、試験走行区間も横浜・川崎両市の市内のみ)。現時点では本車の走行に当たっては各種特認事項があるため、上記試験区間以外での走行が行われる予定は当面ないとのこと。
(公式パンフレットより)
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