text & photo(特記以外):RM
取材日:’25.7.25(特記以外) 場所:新金谷構外側線
取材協力:大井川鐵道
SLの動態保存運転のパイオニア的存在である大井川鐵道では、従来は基本的にすべての客車がいわゆる旧型客車で、冷房装置は非搭載となっていました(一部元電車改造のお座敷車も含まれましたが、非冷房であることは同じ)。近年の夏場の酷暑では乗客の熱中症の危険が上昇することもあり、この度同社ではJR西日本より12系客車5両の譲渡を受け、営業運転に投入することを発表。本日、当地において報道陣にお披露目がなされました。

▲遠く大阪から静岡への移動を終えた12系客車。

▲ブルートレイン塗装のE31 4とのカラーマッチングもピッタリです。

▲冷房車ながら、窓が開くこと、そしてボックスシートであることが、大井川鐵道にはマッチするとして選定されたとのこと。
この12系客車は、これまで網干総合車両所宮原支所に所属し、臨時列車や乗務員訓練列車などで長年使用されてきた車両。1978年に当時の国鉄宮原客車区に新製配置され、JR化を経てなお生え抜き車両として生き永らえてきましたが、2019年に「SL北びわこ号」の運行が終了した後は稼働率が大きく低下していました。JR西日本に残っていた最後の12系客車でもあります。形式・車番は下記の通りです。直前に下関総合車両所にて塗装などの整備を受け、大変美しい状態での入線となりました。
●スハフ12 129、オハ12 346、オハ12 345、オハ12 341、スハフ12 155
譲渡に当たって、大井川鐵道の鳥塚亮社長は次のように語っています。
「このたび、JR西日本様より貴重な12系客車を譲渡いただく運びとなりましたことに、心より御礼申し上げます。
12系客車は、かつて日本全国を走り抜け、多くの人々の思い出を運んだ名車両であり、昭和の鉄道文化の象徴ともいえる存在です。大井川鐵道では、SL列車をはじめとする観光列車の魅力向上に取り組んでおり、今回の導入により、より多くのお客様に「昭和の国鉄体験」をお楽しみいただけることを大変嬉しく思っております。
また、本件にあたっては、当社の親会社であるエクリプス日高株式会社より多大なるご支援をいただきましたことを、この場を借りて深く感謝申し上げます。グループとしての力を結集しながら、大井川鐵道の更なる発展と地域への貢献に努めてまいります」
マスコミとの質疑応答では、次のようなやり取りがありました。
――導入の経緯について
「旧型客車が非冷房であるので、トーマスを含めた観光列車を冷房化していきたいというのが、大きな目的となります。時代と共に観光列車も変わって行かなければなりませんから。SLもトーマスも続けていく前提で、ブルートレインを加えた3本建てで行きたいとかんがえています」
――今後のスケジュールは
「8月いっぱいまで大井川鐵道の線路に合うよう整備と届け出の手続きを行い、9月・10月に試運転を入念に実施します。11月から営業運転に入りたいというのが、現時点での計画です」
――実際の運用についてはどのように
「夏季は3両と2両に分けて、3両をトーマスの冷房車(EL側に連結・オレンジ色の旧型客車と混結)、2両をSL列車・EL列車に使用する予定です。
SL・EL列車では1〜2両を食堂車にして、通年の運行も可能となります。夜行列車も客車で通年運行が可能となるなど、可能性がかなり大きく広がります」

▲西浜松駅から新金谷構外側線にトレーラーによる陸送で到着した12系客車。
‘25.7.20 P:大井川鐵道提供

▲1両の車体を2基のクレーン車で吊り上げて線路上の台車に載せていく作業。

▲クレーン作業写真2点:’25.7.22 P:大井川鐵道提供
ちなみに、大井川鐵道では元「SLやまぐち」用のレトロ風12系客車5両も保有していますが、整備入線の目途が立たないまま、うち4両について売却の方針が示されています。また、元JR北海道から譲受した14系客車4両も保有していますが、鳥塚社長によれば「大井川鐵道の考える観光車両は窓が開くことと、食堂車に使用できるボックスシートが望ましいと思っています。14系は固定窓、ボックスシートではないので12系の方が向いていると判断しました。ただし、予備電源車としてスハフ14を整備することも考えたいのですが、あくまで未定です」とのことです。
現在、同鉄道は2022年の台風の被害により、川根温泉笹間渡~千頭間が現在も不通のままとなっていますが、全線での運転再開は2029年度末を目指している、とのコメントも得られました。



