国鉄では古くから等級制が導入され、客車の場合でいうと明治の時代より上等・中等・下等(後に1等・2等・3等)の3種に区分されていました。その中間にあたる中等(→2等車)は今で言うグリーン車の始祖にあたり、例えば昭和初期の2等車では、ゆったりした固定クロスシートまたは転換式座席が標準でした。そんな普通2等車の歴史を振り返ります。
日本の鉄道創成期の中等車(後の2等車に相当)の座席は、長手座席…今でいうロングシートが装備されていました。「マッチ箱」と比喩されるような小さい車体であった当時は、当初コンパートメント状の座席配置だった下等車よりも足を伸ばしてゆったり乗れる長手座席が喜ばれたようです。
やがて大正後期から客車が大型化していくと、ゆったりした4人掛けの固定座席(クロスシート)が主流に。さらに長距離列車が普及していくにしたがい、2人掛けの転換式座席も2等車に使われるようになってきました。

▲普通2等車の座席3態。左下写真は鉄道創業時から大正期までに見られたロングシート、右上は4人掛けの固定座席、右下は2人掛けの転換座席。
このうちの後者2つが昭和初期の2等車の座席として使われていく。
出典:RM LIBRARY 274巻『並ロ(なみろ)のすべて(上)』
昭和初期より車体の材料が木製から鋼鉄製となりますが、当初は17m級の車体や魚腹式台枠・二重屋根(ダブルルーフ)の採用など、「外板が木から鉄に置き換わっただけ」に近い構造を踏襲していました。この時代の2等車がオロ30形とオロ31形。前者は4人掛けの固定座席、後者は2人掛けの転換座席を持つ2等車でした。

▲左上が固定座席のオロ30形、右上が転換座席のオロ31形の外観写真。
オロ30形はNゲージ鉄道模型の黎明期から発売されている製品として知られているが、実車は2両しか存在しなかった。
出典:RM LIBRARY 274巻『並ロ(なみろ)のすべて(上)』
以降終戦直後に至るまで、車体長が20mになり、二重屋根をやめ現代と同様のシングルルーフになっても、ほとんどの系列の客車で固定座席車と転換座席車が新造され、それぞれ目的に応じて使い分けられていました。
ちなみにこの頃はまだ「並ロ」という呼称はありません。理由は後に説明します。

▲鋼製の20m車体を持ち、増備の途中からシングルルーフで製造された32系の車両群。中央に見える車体に帯が半分だけ巻いてある車両は、スロハと呼ばれる2等車と33等車(撮影時点では1等車と2等車)の合造車で、帯がある部分が元2等の1等客室。
出典:RM LIBRARY 274巻『並ロ(なみろ)のすべて(上)』
2種の座席配置で量産されてきた2等客車に転機が訪れるのは戦後に入ってからです。時の占領軍は日本国内での移動に主に2等客車を使っていたのですが、その車内設備に不満を持ち、新たなサービスレベルを持つ特別車両の新製を指示してきたのです。
従来の2等車の特徴であった「ゆったりとした固定座席」もそれは日本人にとってのこと、体格の大きい米国の軍人にはそれよりさらにゆったりした、さらに米国では一般化していたリクライニング機能を備えた2等車が必要であると要求された結果、当時の国鉄も無視するわけにもいかず急ピッチで製造を開始した車両が特別2等車、いわば「特ロ(とくろ)」でした(ロは当時の2等客車の等級記号)。そして1950(昭和25)年、リクライニングシートを備えた最初の「特ロ」・スロ60形が誕生するのでした。
新たに生まれた「特ロ」は米軍関係者はもちろん、日本人にも好評であったことから、以降の2等車はリクライニングシート装備の「特ロ」が中心となっていきました。こうなってくると「特ロ」以外の従来の2等車を区別する必要が生じ、そこで「並ロ」という言葉が生まれました。

▲「特ロ」の代表的な形式のひとつ、スロ54を連ねた東北本線の団体列車。同形式は晩年に冷房化改造もされて、1980年代まで活躍した。
1963.3.30 上野 P:和田 洋 出典:RM LIBRARY 220巻『特ロのすべて』
優等列車の2等車については優先的に「特ロ」が使用されるようになったことから、車内設備の劣る「並ロ」は長距離普通列車などに使われるようになりました。しかし特急・急行列車の増発により普通列車の2等客も減少する一途で、並ロ車両は格下げや寝台車・荷物車・通勤型車両などへの改造種車となり、ピーク時の1955~58(昭和30~33)年の627両から大きく数を減らし、その後1967(昭和42)年までに全廃されました。途中、国鉄の3等級制が2等級制となり、さらに1969(昭和44)年には2等車が普通車、1等車はグリーン車と制度変更されますが、その時には客車の「並ロ」はすべて全廃された後でした。
最後まで冷房化改造されることもなく、「特ロ」に比べて地味な存在ではありましたが、その多彩にわたる形式と優美な外観は、今なお客車ファンの心を魅了します。
2023年4月掲載記事を加筆修正の上掲載。
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