text:鉄道ホビダス編集部
▲グリーン車4両を連ねた中央線用E233系グリーン車の試運転。
‘23.11.13 山手線(山手貨物線) 渋谷〜恵比寿 P:東條ともてつ
(鉄道投稿情報局より)
今や関東圏の近郊型電車(E231系などの一般型近郊タイプ含む)に当たり前のように連結されている2階建てのグリーン車。2階建て車両を組み込む編成が走る姿は、首都圏の日常的な光景の一つになっていますが、それが当たり前になったのは、国鉄の分割民営化後の話になります。
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■民営化後 本格的にグリーン車は2階建てに
それまで近郊型電車に組み込まれるグリーン車は、普通の平屋構造の車両しかない上に、急行型や特急型で余剰となった車両を近郊型グリーン車に転用する例も多く見られるような存在でした。
そんな中時代は1980年代後半となり、郊外の人口が増加する反面、都市部の人口が減少するといういわゆる「ドーナツ化現象」が進み、遠距離・中距離からの通勤需要が高まった結果、定員増加と着席サービス向上が望まれるようになります。それらを実現するべく登場したのがこの2階建てグリーン車でした。
登場したのは昭和から平成へ元号が変わったばかりの1989年。最初は東海道本線用の211系に投入されたサロ213形とサロ212形、そして113系の老朽化したグリーン車を置き換える目的で製造されたサロ124形でした。いずれの車両もステンレス製の2階建てで、211系用サロ213形は便所と洗面所付き、211系用サロ212形と113系用サロ124形は車掌室付きという構造で落成しました。
その後横須賀・総武快速線113系用にも2階建てグリーン車が登場したほか、1992年に登場した215系に至っては、先頭車を除く全ての車両が2階建てという構造を持っており、当初は東海道本線の快速「アクティー」やライナー列車である「湘南ライナー」などで使用されていましたが、さすがに10両中8両を2階建てにしたため乗降に時間がかかり運用上の障害となったりしたため大量増備はされず、晩年はライナー列車のほか休日臨時快速などでの運用がメインになりました。
とはいえ、2階建てグリーン車はその後JR東日本の近郊型ではスタンダードとなり、1994年登場のE217系では落成時より2両連結で登場。2004年にはE231系近郊タイプに、2007年にはE531系に、それぞれ後から編成組み換えする形で2階建てグリーン車を導入し、関東圏ではお馴染みの存在となっていきました。
■たった1両のプロトタイプ
先述の通り、2階建てグリーン車は着席数を増やすという目的と混雑緩和も期待されました。そこで朝ラッシュ時に座って通勤できる可能性を探るとして製造されたのがクハ415-1901でした。このクハ415-1901は415系1500番代をベースとしつつも、先頭車の2階建てという奇抜なスタイリングが目を惹きました。また、「クハ」の記号からも分かる通り、こちらはグリーン車ではなくあくまで普通車。このような車両構造の面からも珍しい存在だったと言えるでしょう。
その後このクハ415形1900番代は量産されることなく1両だけの存在として活躍を続け、2005年には引退します。ですが、先述の通り、2007年にE531系による2階建てグリーン車の運行が開始されたことから、全く意味がなかったというわけではないように思えます。
■「平屋」のグリーン車は遠い過去の存在へ
113系や211系の平屋グリーン車は、定員が少ないことや老朽化を理由に2000年代以降、置き換えられていくことになります。東海道線東京口からは2006年に平屋グリーン車が撤退。以降同路線のグリーン車は全て2階建て車両によるものとなり、211系の平屋グリーン車は東北・高崎線系統に転出。ですがこれも2013年にE233系に置き換えられる形で引退します。
現在でも横須賀・総武快速線用の新型E235系2階建てグリーン車に加え、中央快速線系統に新たに導入予定となるE233系0番代のグリーン車が、211系・113系に導入された頃とほぼ変わらない車体断面で落成し、今後の活躍が期待されています。
混雑緩和、そして着席数向上によるサービスアップという観点で登場したJR東日本の近郊タイプ2階建てグリーン車。その車両史を振り返ると紆余曲折あったものの、今もこうして代々と受け継がれています。