text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回はかつて存在した「リニアモーターカー」なる車両の足跡をたどります。もちろんこのリニアモーターカー自体は架空の車両で、紆余曲折のあった車両でした。一体どのような経緯で誕生し、その後の製品の行方を見ていきます。(編集部)
前回は0系という過去の新幹線を紹介したので、今回は「未来の新幹線」についてご紹介していきます。
約半世紀に渡る試験を経て、いよいよ開通へ向けて工事が進んでいる磁気浮上式鉄道の中央新幹線。プラレールにおいても営業用として開発されたL0系が製品化されており、2015年に日本車輌製造が展開していた「日車夢工房」から限定品が発売されたほか、全国流通品の通常品では初期型(2019年、廃盤品)と改良型(2021年、現行品)の2種類が発売されています。今では「リニアモーターカー」のイメージとしてすっかり定着した印象のあるL0系ですが、実はこれよりも前に製品化された車両があります。今回はその「リニアモーターカー」と、その後の姿についてご紹介します。
【写真】プラレール架空車の源流!?リニアモーターカーとその仲間たちを写真で見る!
▲プラレールのリニアモーターカーは名前そのまま「リニアモーターカー」。白い車体に赤色と黄色のラインという装い。
プラレールの「リニアモーターカー」は今から約34年前、1990年8月30日に発売されました。実車における超電導リニアの研究は50年以上続いているため、時代によって試験車両も進化しています。しかし、プラレールにおいてはそのうちのどの試験車にも当てはまらない姿をしています。
実はこの車両、JR東海が1988年に製作したモックアップ「MLU00X1」をモデルとしています。このモックアップは将来走るリニアモーターカーの姿をアピールするために作られ、外装はもちろん車内もしっかりと作られていました。東京駅で展示され、その後も各地を回りました。
MLU00X1はメタリックブルーを基調とし、窓下はメタリックスカイブルーとシルバー、車体裾部はグレーという、今までの新幹線とは変わった近未来的なカラーリングとなっていました。1970年の日本万国博覧会で展示されたリニアモーターカーの模型が0系新幹線に近い色合いだった事を考えると、デザイン面においても今までとは異なるイメージを目指していたのが分かります。
プラレールでもこの未来の車両であるMLU00X1を製品化することとなり、1990年のカタログにもモックアップの姿で掲載されました。商品名はJR東海のパンフレットの記載が由来となる「リニアエクスプレス」です。
しかし、実際に発売されたのは写真の通り白い車体に赤いラインの姿。商品名も変わっています。詳しい事情は不明ですが、JR東海の認可が下りなかったのか、はたまたメタリック塗装の表現に難があったのか…。とは言え完全な架空デザインかと言うとそうでもなく、1990年当時に宮崎実験線で試験走行が行われていた「MLU002」の塗装がプラレールと似たカラーリングでした。
浮上式鉄道を表現するため車輪は透明なものになり、今までのプラレールとは変わった印象を受けます。MLU00X1の特徴である台車の電磁石は台車に表現され、客用扉と貫通路はモールドとなっています。
近未来の鉄道とは言え、モデルはあくまでもモックアップ、しかも見た目はプラレールオジリナルの「架空車両」となったリニアモーターカー。1997年に山梨実験線が完成し、新たな試験車両「MLX01」が登場しましたが、MLU00X1とは異なり既存の東海道新幹線の車両と同様の白地に青帯の姿となりました。実現に一歩近づいた車両が現れたことで、それらしい「概念」として発売され続けていたプラレールのリニアモーターカーはその地位を失うこととなり、同年中に絶版になりました。
同じように次世代型新幹線のモックアップをプラレール化し、同年に発売された「スーパーひかり号」共々、90年代の一製品として姿を消す結果に終わりそうだった「リニアモーターカー」ですが、その流れを断ち切るような出来事が起きます。それが500系900番台、WIN350の登場です。
▲1995年に発売された「WIN350」はリニアモーターカーの台車を流用し、車体は新規造型となった。
WIN350はJR西日本の次世代型新幹線電車の試験車で、1992年に登場しました。丸みを帯びたノーズにフラットな側面を持ち、偶然か必然か、MLU00X1に近い形状の車両が新幹線の線路上を走るようになったのです。
プラレールでは1995年に「リニアモーターカー」をベースに製品化され、新規造型の車体を乗せることで車体形状を再現するという、プラレールお得意の「それらしい」見た目に仕上がりました。キャノピー型の運転台が特徴的な500-906が先頭に、後尾車はフラットな顔の500-901となり、それぞれ作り分けられています。それぞれの屋根上には大きなパンタグラフカバーが再現されたものの、パンタグラフそのものは省略されました。中間車は窓が多い4号車(500-904)がモデルとなり、屋根上の「series 500-900」のロゴもしっかり再現されています。
1997年に500系の量産車がデビューし、もちろんプラレールでも製品化されました。500系のデビューに先立ち、実車のWIN350は1995年に試験を終了し廃車となっています。しかし、既存の新幹線とは異なる紫色のカラーリングやその知名度から人気が高かったらしく、2002年の新幹線一斉リニューアルを乗り越え2009年まで発売され、一般人が乗車できない試験車両としては異例とも言える長期に渡ってラインナップに載っていました。
この間、「リニアモーターカー」も別の道を歩んでいます。凹凸の少ない平坦な車体を生かし、自由にデザインすることが可能な車両として再出発を果たしました。1999年4月に「ホワイトプラレール」として登場し、当時存在したファンクラブで配布された後、一般流通もしています。こちらは台車がグレー成型となった中間車2両のみという内容で、同年6月に発売された「親子で描こう!プラレール」の増結用として使えるものでした。「親子で描こう!」は動力付きの3両編成で、「リニアモーターカー」と同様の赤い台車となっていますが、車輪は他の車両と同様の黄色のものを装備し、車体は無地の白一色とされました。「電動超特急ひかり号」に近いイメージです。
2000年10月にはファンクラブ限定品として先頭車・後尾車の2両編成となった「ホワイトプラレールFC」が配布されています。カスタマイズ用にオリジナルのシールが付属していました。こちらは黄色い台車の赤い車輪で、前述のもののカラーバリエーションです。
その後しばらく間を置き、2007年にプラレール博のアトラクション景品としてプラレールオリジナルデザインとなった2両編成のものが3色(緑色、オレンジ色、白色)用意されました。
景品としての配布は後に続く別の車両に譲りましたが、2011年にオープンした「プラレールショップ」のポイント交換景品として再び3両編成で復活しています。「ブルーストリーム」と称し、その名の通り青い車体で台車はグレー成型です。屋根上には機器類やパンタグラフが印刷で表現され、本来の「リニアモーターカー」ではなく流線型の電車として設定されていることが伺えます。
このようにプラレールオリジナルデザインの車両として展開できるポテンシャルを秘めた「リニアモーターカー」でしたが、この「ブルーストリーム」を最後に姿を消しました。
実車・プラレールともに30年以上前の設計となり、派生であるWIN350から誕生した500系量産車ですら引退の足音が迫るほどの月日が経っています。昨今の「プラレール鉄道」の架空車展開も、遡るとこの車両に源流があるように思えます。