text & photo(特記以外):鉄道ホビダス編集部
3Dプリンタで出力された鉄道模型パーツ製品をリリースするブランド「ヨミテックス」の代表であるヨミさん。ライト消灯状態でもリアルな銀色に輝く「ヨミレンズ」のヒットをきっかけに、クリアパーツや床下機器パーツなど、数多く世に送り出してきました。そんなヨミさんの鉄道趣味に対する姿勢は非常に興味深いものがあります。今回鉄道ホビダスではヨミさんに直接取材をし、製品だけではなくどのようなことを考えて日々鉄道模型に触れているのか、今後はどのようなことを「計画」しているのか、いろいろお伺いしました。(編集部)
【写真】3Dパーツブランド「ヨミテックス」代表のヨミさんの製作物写真はこちら!
■大きなスケールの出力にも挑戦!
日本の鉄道模型で広く普及している1:150スケール(Nゲージ)や1:80スケール(16番)だけではなく、最近ではより大きい1:45スケール(Oゲージ)の前面部出力にも挑戦しているヨミさん。作った前面部分のモデルは115系、京成3700形で、115系であればジャンパー栓受廻りのディテールや、3700形であれば前面下部が若干折られた形状になっているところなど、形状はしっかりこだわっているのが印象的です。ちなみに3700形は、Nゲージ用スカートパーツを作る際の「副産物」なんだとか。元々実車スケールで設計をしたのちに、出力する各模型スケールに縮小するという設計方法であるからこその楽しみ方といえます。
また、最近では基準となる実物パーツの寸法をもとに、写真から設計図面を起こしており、より実車の印象に近い上に効率的な製作を実現させています。出力時間は115系は設計3時間の出力3時間、3700形も出力は2時間ほどで出来上がるという驚異のスピード感。この素早さもデジタルモデリングならではのものでしょう。
さらに最近発達しているAIの活用も検討しており、まずはいろいろ試してみるところから始める予定だとか。ヨミさんのモットーとして「良い意味でラクをしてモデリングしたい」というのがあり、より効率的に・精密なモデリングができないか常に探求し続ける姿勢は目を見張るものがあります。
■模型を走らせた時の「音」にも注目
ヨミさんの興味は模型だけに尽きず、最近では模型の「音」にも注目しているとか。鉄道模型永遠のテーマの一つに、実車の音をどのように再現するか…というものがあるかと思います。音を再現するためにDCC(鉄道模型をデジタル信号で制御するもの)を導入したり、パワーパック(コントローラー)直結でサウンドユニットを取り付けたりと、様々な方法がこれまでに登場しました。
ヨミさんはそんな中で、実際に鳴っている鉄道模型の音自体を加工できないかと考えました。具体的には、橋を通過する時のジョイント音を再現するべく、ギターのピックアップという機械を橋のジョイント下にセットし、そこへオクターブを下げた音を出せるエフェクトをかけてあげることで、低い上に響くジョイント音を再現することに成功しました。これのメリットはなんといってもリアルタイムで鳴るということ。現在は試作段階だそうですが、ゆくゆくは橋脚下にこの装置を埋め込み、情景にも溶け込むようにしていきたいとのことでした。
■鉄道グッズ類の製作で「ヨミテックス」をより広く
▲蓄光シートを活用して製作した「光る速度計キーホルダー」。緑色の発光により非常にそれらしい雰囲気を醸し出す。
P:ヨミ
文字通り光を蓄えて、暗いところでも光る性質を持つ「蓄光塗料」。この蓄光塗料が使われたシートを活用したグッズとして試作されたのが「光る速度計キーホルダー」です。これの発想の原点には、ヨミさんが幼少期にお気に入りだったというヘッドマークの光るキーホルダーがありました。確かに暗いところでも光るヘッドマークは子供心をくすぐるものでしたが、幼いながらもヨミさんは「照明のない板状のヘッドマークが光ることはないよな…」と思っていたそうで、大人になって改めて蓄光塗料のように光る鉄道パーツということで思いついたのが速度計でした。
実物の速度計も暗いところではバックライトが光りますが、その色は蓄光塗料の緑がかった色とドンピシャで、雰囲気も十分。一般層に向けて作ったそうですが、筋金入りのレイル・ファンにもしっかり響く、こだわりの製品になっています。なおこちらはイベント出品時に完売してしまったため、近く増産予定とのこと。再び発売されるのが待ち遠しい逸品です。
■まだまだ膨らむヨミさんの計画
ヨミテックス製品の中でも、やはり原点とも言える「ヨミレンズ」シリーズに関しても今後の更なる展開が予定されており、現在はLEDのツブツブ感を再現したテールランプ用ヨミレンズのほか、多く要望を頂いているという16番用のヨミレンズのリリースも検討中とのこと。発売開始はもうしばらくお待ちくださいと話されました。
また、近年ではスマホによる3Dスキャンの技術も飛躍的に向上し、アプリさえ入れれば誰でも簡単に3Dモデルを生成することが可能になりました。ヨミさんは「SCANIVERSE」というアプリを利用し、車両パーツや駅の様子などをスキャンし、立体的な記録もしています。京成3700形のスカートパーツはこのアプリを利用して作られており、早速ヨミテックス製品に実戦活用されていました。
さらにヨミさんはそれだけにとどまらず、鉄道模型でよりリアルな編成写真を撮影する技法も追求しています。いわゆる「深度合成」という、ピントが浅く(ボケが出やすく)なりがちな鉄道模型において、全体にピントが合ったような写真にパソコンソフトを使用し合成するテクニックで、より本物らしい編成写真の撮影に成功しています。ゆくゆくは鉄道模型の撮影ブースを、脱着可能なアルミフレームで作ってみたいとか。
最先端の技術と持ち前のアイディア力を駆使して、長年の夢を次々と叶えていくヨミさん。その計画は、これからの鉄道趣味の明るい未来を感じさせました。
◆今月の『RM MODELS』特集は「鉄道模型デジタルモデリング」!
現在の鉄道模型では、話題の3Dプリンタによるモデリングをはじめ、各種デジタル出力機器を用いた技法が確立しています。本誌ではこれらの技法を「鉄道模型デジタルモデリング」と称し、2000年代初頭から特集や別冊で情報を発信し続けています。当初は技術を習得した者だけが模型工作に活用できる限定された技法でしたが、現在ではサードパーティの製品を通じて、誰もがデジタルモデリングに触れられるようになりました。
本特集では、鉄道模型工作に浸透したデジタルモデリングの「今」を、実践しているモデラーの作品やメーカーのインタビューで紹介していきます。