185系

特集・コラム

元阪神・元名鉄・元京急 旧型車の宝庫だった昭和晩年のことでん

2024.02.27

text:RMライブラリー編集部

 元京急や元名古屋市営地下鉄など、香川県の高松琴平電気鉄道(ことでん)には現在でも各地からの譲渡車が活躍していることはこれまでにもお伝えしていますが、今から40~50年ほど前にも車種は現在とは異なるものの、東西の大手・中小私鉄などから多数の譲渡車を受け入れ活躍していました。まだ記憶に新しい方も多いと思われる、そんな車両の一部を紹介します。

 

▲近鉄から譲渡された20型。製造時の姿はほぼとどめないものの、驚異的な長寿を誇った。

1977.3 栗林公園 P:宮武浩二

 日本最大の私鉄と言われる近鉄こと近畿日本鉄道。しかしその割には近鉄からの地方私鉄への譲渡車両はあまり多くありません。琴電では近鉄南大阪線の前身、大阪鉄道時代に新造されたモ5621形4両の車体を購入し、別個に購入した下回り部品を組み合わせて琴電20型21~24としてデビューさせました。

 種車は1925(大正14)製という骨董品的な車両でしたが、最後まで残った23が廃車となったのはなんと2020(令和2)年! たび重なる更新工事により別の車両としか思えない外観にはなっていましたが、大正・昭和・平成・令和と生き延びた長寿電車でした。

▲阪神から譲渡された30型(二代目)。独特の形状の貫通扉から阪神時代より「喫茶店」の愛称で親しまれていた。

瓦町 P:宮武浩二

 続けては阪神電鉄より881形を譲り受け、長尾線の主力として用いられた琴電30型(二代目)です。戦時中に製造され阪神の急行などで活躍した881形は、小型車であったことから600Vから1,500Vへの昇圧を機に阪神から引退することになり、1964(昭和39)年より4回に分けて16両が琴電入りしました。

 小型の車体や16両(うち3両は制御車として使用)というまとまった両数であったことなど、当時電圧600Vであった長尾線で運用するには絶好の車両で、一時は長尾線の全運用を賄うに至りましたが、戦時製造ゆえの老朽化や長尾線の1,500V昇圧などの理由により1977(昭和52)年には全廃されました。しかしその台車など一部の機器はその後の車両にも転用され、しばらく活躍が見られました。

▲名鉄から譲渡された1020型。琴平線の主力車両として活躍した。

1977.3 片原町 P所蔵:宮武浩二

 続いて紹介するのは名鉄3700系を譲り受けた琴電1020型です。3700系は木造車などの下回り部品を流用し、車体を1958(昭和33)年以降に新製したもので、名鉄ではHL車と称して主に支線区で活躍しました。しかし性能は旧型車並みのため1969(昭和44)年より琴電への譲渡が始まり、制御電動車・制御車合わせて16両が琴電1020型となりました。

 近代的な大型車体は琴平線での使用に最適で、一部の車両は名鉄時代に交換された転換クロスシートをそのまま生かして活躍しました。さらに一部の車両は高性能車に改造され今後の活躍が期待されたものの、車両冷房化の要請により他社の冷房車を購入した方が得策ということになって、交代で廃車とされました。

▲京急より譲渡された30型(三代目)は14両が入線、最初の3本6両は前面非貫通のままで使用された。

出典:RMライブラリー284巻『高松琴平電気鉄道 吊掛車の時代(下)』より

 琴電支線用の老朽車代替策として、京浜急行電鉄よりデハ230形を14両譲り受け、30型(三代目)として1977(昭和52)年より順次使用を開始しました。京急230形は晩年はもっぱら支線区で活躍していましたが、琴電ではその16m級で小振りな車体が志度・長尾線用として最適なばかりでなく、京急本線での高速運転にも応えたその下回りやパンタグラフなどの機器類が琴平線車両の性能改善に役立つとして、譲渡後に台車や機器類の転用が図られました。

 30型は志度・長尾線用として重宝されましたが、車体サイズの近い名古屋市交通局からの車両を冷房化改造して投入することになり、2007(平成19)年までに全廃されました。

 こうして近年の大手私鉄よりまとまった数が譲渡された旧型車について解説してきましたが、趣味者としては1形式につき1~2両程度しか導入されなかった「レア車両」についても大いに気になるもの。これらの歴代琴電旧型車のすべてについて解説をした『RMライブラリー 高松琴平電気鉄道 吊掛車の時代』がついに上・中・下の全巻が出揃いました。興味を持った方はぜひお手に取ってご覧ください。

 

◆RMライブラリー284巻『高松琴平電気鉄道 吊掛車の時代(下)』が好評発売中です。

 四国・香川県の高松市周辺に3つの路線を持つ高松琴平電気鉄道(琴電)の、創業時から1980年代に導入された吊掛駆動電車までを取り上げる本書、下巻では比較的記憶に新しい1960年代以降の譲渡車両について解説します。終戦直後の混乱期を脱し、阪神や京急など改軌工事の不要な標準軌の大手私鉄などからまとまった数の車両が入線することで、琴電の車両近代化は急速に進んでいきました。

 元阪神の「喫茶店」と呼ばれ親しまれた30型(二代)、元名鉄3700系の1020型、元京急230形の30型(三代)を中心に、元東濃鉄道や元山形交通、元玉野市電など種々雑多な車両の混在が魅力であった当時の吊掛駆動電車について解説します。

■著者:宮武 浩二(みやたけ こうじ)

■判型:B5判/48ページ

■定価:1,375円(本体1,250円+税)

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