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特集・コラム

俊足を極めた「こんぴらさん」詣での急行列車【戦後の琴電】

2024.01.21

 いまや「うどん県」としてのインパクトが強い四国の香川県ですが、同県随一の名所と言えば昔も今も変わらず「こんぴらさん」こと琴平の金刀比羅宮でしょう。

 鉄道の歴史上「参詣客輸送」というものは、現在でいえば通勤・通学輸送のように「そのために鉄道を敷く」という目的に十分なり得る要素でした。成田山、高野山、川崎大師など全国各地で参詣のための鉄道造りが黎明期に繰り広げられましたが、特に金刀比羅宮への参詣客輸送にあたっては、讃岐鉄道(後の国鉄土讃線)、琴平参宮鉄道、琴平電気鉄道、琴平急行電鉄と、最盛期には4つの鉄道が香川県各地から琴平の地を目指し、しのぎを削りました。

 

▲三社合併後初の新造車として日立製作所に発注された10000型。「こんぴら号」の愛称が付けられ、1959年の琴平線急行運転開始時には主力として活躍した。10000型ながら車号は1001と1002で、形式に対し車号が一桁少ないのは琴電独自の付番方法であった。

1954.4.8 仏生山 P所蔵:宮武浩二

 そんななか、高松市周辺を走る3つの鉄道が1943(昭和18)年に合併し、高松琴平電気鉄道(琴電)が発足しました。琴電ではその基幹路線となる琴平線の競争力を高めるべく、戦災で廃止となった高松築港から瓦町に至る市内線に代わり、新たなルートの鉄道線を敷設して、四国の玄関口である高松駅前の正面にある高松築港駅から琴電琴平駅への直通を可能にしました。そして1952(昭和27)年に開催される高松国体に合わせ、観光目的に利用できる新造車両を2両、日立製作所に発注したのでした。それが10000型「こんぴら号」です(上写真)。

 いずれも制御電動車からなる2両編成で、多段式制御方式を採用したほか複電圧装置、発電制動など大手私鉄並みの装備で注目を集めました。当初はロングシートでしたが、1959(昭和34)年3月の急行運転開始時には2人掛けのバス用座席が取り付けられました。

 新設された急行電車は高松築港~琴電琴平間を従来より25分短縮した41分で結び、1日3往復運転されました。急行列車は特別料金は不要で前面にヘッドマークが付き、高松築港の次が栗林公園駅でそれ以降は琴平まで直行運転となり、各駅を徐行なしで通過したとのことです。

▲10000型に次ぐ観光用車両1010型。こちらは1955(昭和30)年に鋼体が完成した後、長らく放置されていたが、1960(昭和35)年にようやく完成、「こんぴら2号」の愛称で呼ばれた。

1960.3 仏生山 P所蔵:宮武浩二

 実は琴電では10000型登場後より2本目の観光用車両を企画していました。1955(昭和30)年にその車体が完成し、琴電の仏生山工場で艤装工事を行う予定だったのですが、諸々の事情でなかなか着手ができず、完成したのは1960(昭和35)年になってからでした。

 新しい車両は1010型(1011+1012)という形式で「こんぴら2号」と名付けられ、10000型よりさらに近代的なスタイルで評判になり、急行用として親しまれました。

 

▲急行「りつりん」のヘッドマークを掲げた3本目の観光列車、12000型1201号。もともと長距離用途の車両であったため、琴平線の急行列車用としては適任であった。

1960.3 瓦町 P所蔵:宮武浩二

 

1010型の完成までに時間が費やされたため、その間に琴電ではもう1本の観光用列車を入線させるべく、1953(昭和28)年に元富士身延鉄道の買収国電を購入し、整備のうえ12000型(1201+1202)としてデビューさせました。前2本に比べていささか外観的にも古風ではありますが、もともと2扉固定クロスシート車であったため長距離用にはちょうどいい造りで、室内には売店も設置されました。ただこの売店は利用者も少なかったようで、早々に営業は打ち切られたようです。

▲12000型の室内には売店スペースが設けられるなど、譲渡車ながら観光列車らしい設備となった。

出典:RMライブラリー283巻『高松琴平電気鉄道 吊掛車の時代(中)』

 こうして趣向を凝らした3本の観光列車が出揃い、琴平線の急行列車用として重宝されますが、その急行列車そのものは昭和40年代にもなると乗客の減少により準急列車化され、さらにラッシュの激化により詰込みの利かない急行用車両は敬遠されるようになり、晩年はロングシートの通勤用車両となっていました。そして1980年代には10000型と12000型が廃車、1010型は機器更新や正面貫通化などの改造のうえで継続使用されましたが、2003(平成15)年に廃車となりました。

 

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中巻では戦後の1940・50年代に他私鉄から譲り受けた車両を中心に、今回の紹介にある、満を持して登場した3形式の急行用車両についても詳しく紹介します。

■著者:宮武 浩二(みやたけ こうじ)

■判型:B5判/48ページ

■定価:1,375円(本体1,250円+税)

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