text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は、今や当たり前となったプラレールの「2スピード」車両の始祖に迫ります。現在では新幹線を始め、多くの車両に装備されていますが、その始まりは意外な車両からでした。(編集部)
↓2スピード車両の始祖は!?写真はこちら↓
今や一般的となった、速度を二段階に調節できる「2スピード車両」と呼ばれるプラレール。今では新幹線や特急車などの高速運転をする車両に搭載されている事が多い「2スピード」ですが、最初にスピードを切り替えられる機能を搭載して登場したのは、現在から見ると意外な車種でした。今回はその車両について紹介していきます。
▲1979年発売の「EC10 急行電車」
プラレールは1961年に動力車が発売されて以来、電池を入れてスイッチをONにすると走るという、電動鉄道玩具の地位を確立していました。蒸気機関車から電車、ディーゼル車、新幹線まで、実際の最高速度が異なる車両を幅広くカバーしていますが、搭載しているモーターはほぼ全て共通。電池の残量やモーターボックスの構造、そしてモーターの状態にもより変動はあるものの、基本的に速度は一定でした。
そんな状況の中、1979年5月にスピード切り替え機能を搭載した新製品「急行電車」が発売されました。車両は東北本線で運行されていた451系の「急行ときわ」をモデルとしたもので、既存の「東海型電車」の塗り替え品です。動力スイッチとは別に、新たに開発されたモーターボックスにギアチェンジのレバーを設け、走行中にレバーを操作する事で、低速・停止・高速の切り替えが出来ると言った画期的なものでした。
▲前面と屋根上の二箇所にスイッチが設けられた。
モーターボックスは既存の物から改良され、後年に登場し2023年現在でも生産されている通称「新動力」のものに近い形状となりました。車両後尾側から「はやい」「ストップ」「おそい」の順でギアが変わり、後に正式に採用される事になる2スピード車の「OFF – ON – HI」の並びとは異なるところに試作的な要素を感じられます。このうち「ストップ」は、モーターの電源が入った状態でギアを動輪用のシャフトから外すだけの機能で、停車中でも回転は止まらないため、電池とモーターの双方にあまり優しくない機能でした。
このように画期的な機能を搭載して発売された「急行電車」でしたが、スピード切り替え機能が他の車種に波及する事なく、1984年に絶版となっています。絶版翌年の1985年に実車の451系が「ときわ」から撤退し普通列車などに転用されたため、高速走行をする電車というイメージも薄くなり、以後通常商品として再度プラレール化される事はなくなりました。
▲「東海型電車」との並び。
「急行電車」の絶版から約3年後の1987年、モーターボックスの刷新が行われ、スイッチが屋根上に移動すると同時に「1スピード車」「2スピード車」の概念が導入されました。
「2スピード新幹線」「L特急」などの実車が高速走行を行う車両に「2スピード」が採用され、以後多くの車両に波及。プラレールの一般的な機能として定着して35年が経過しました。「急行電車」そのものは5年程度で絶版となってしまいましたが、ここで確立された屋根上のスイッチとスピード切り替え機能は現在に引き継がれています。
プラレール史に名を残すと言っても過言ではない「急行電車」は復活を望む声も多かったようで、1999年にプラレール40周年を記念して発売された「みんなが選んだ復活トリオ」にて「457系(ときわ)」として1スピード車ではあるものの復活を果たしました。2007年には鉄道博物館の開館を記念して発売された「鉄道博物館開館記念スペシャルセット」で後尾車のみですが展示車両から「クモハ455形」が選ばれて再度製品化されています。
時代の流れにより、451系を始めとする急行型電車は既にJR線からは姿を消しました。現在ではえちごトキめき鉄道でクハ455-701が往年の姿で活躍しています。プラレール博限定で165系が復活した今、「急行電車」の復活にも期待したいですね。