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特集・コラム

古色蒼然とした東武旧型電車、その華麗なる転身

2023.10.11

RM LIBRARY編集部

現在の首都圏には、国鉄由来のJRのほかにも多数の電気鉄道がひしめき、それぞれ路線を伸ばしています。関東最初の電気鉄道である大師電気鉄道(現在の京急電鉄大師線、1899・明治32年開通)をはじめ、当初より電気鉄道として開業したものが多数派ですが、東武鉄道では同じ1899年の開業ながら蒸気機関車の牽引でスタートしています。

短い距離からのスタートであった大師(→京急)電鉄に対し、関東一円の路線展開を目指していた東武にとっては長距離列車や貨物列車も多数設定されることから、電車がもっぱら近距離の交通機関としての役割を担っていた当時としては、ある意味当然の話でした。長距離使用を想定して、昭和一桁の頃から室内にトイレが付いていたのも特筆されます。

▲1924(大正13)年に新製された東武電車デハ1形など。ダブルルーフや正面窓など、木造車両の特徴をそのまま引き継いでいる。乗務員扉もないのが当たり前であった。

出典:RM LIBRARY 271巻『生まれ変わった東武電車(上)』

 

そんな東武鉄道では大正末期となる1924年より電車の製造が始まりました。ダブルルーフ(二重屋根)や正面の5枚窓など、当時の木造車両のデザインを引き継いだような車両でした。この頃の電車は「固定編成」という概念がなく、モーターの付いた電動車が付随車両を牽引するなどといったプリミティブな運用方法が行われていました。ちょうど路面電車がトレーラーを連結して走るイメージです。

▲昭和1桁に新製された東武電車。1927~28(昭和2~3)製造のデハ5形などで、屋根周りがやや軽快に見える。

出典:RM LIBRARY 271巻『生まれ変わった東武電車(上)』

 

昭和になると、各社で「シングルルーフ」と呼ばれる一段屋根が主流になっていきました。鉄道省や他私鉄などではシングルルーフ化を契機に窓寸法の拡大が見られたところも多かったですが、東武では小さな一段窓の車両が比較的遅くまで使用されていたようです。

▲戦前から戦後にかけては、戦後の資材統制もあって電車のデザインは鉄道省など他社と同じようなものになっていった。

出典:RM LIBRARY 272巻『生まれ変わった東武電車(中)』

電車のデザインは、当時の鉄道省の新製鋼製車を範として、2扉から3扉、客扉下のステップ廃止、両運転台+付随車から片運転台の電動車+制御車を基本とするなど、路面電車時代の名残をそぎ落とし、徐々にではありますが当時としては近代的な外観になっていきました。

▲いかにも古めかしい東武の旧型電車一族は、高度成長期になるとその外観も一新された。既存車両の下回りを流用して車体を新造車並みに作り替えた「見掛け上の新車」3000系列が236両も登場したのだ。右上の白に青帯の塗装は、現在でも一部の支線で見ることができる。

出典:RM LIBRARY 271巻『生まれ変わった東武電車(上)』

「古い電車がいっぱい」の東武線に飛躍的な転機が訪れたのは、高度経済成長期を迎えた1964(昭和39)年からのことです、既存車両の下回りを流用して、新たな全金属製車体を新造する更新工事が進められました。

新造された車体は、当時の最新型通勤車である8000系によく似たもの。工事は10年余り継続され、236両もの旧型車両が新車同然の姿に生まれ変わりました。それらは3000系列として支線区を中心に投入されたことから、これまで古い車両ばかりであった東武鉄道各支線のイメージアップに貢献しました。

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RM LIBRARY(アールエム・ライブラリー)では271~273巻の3冊で『生まれ変わった東武旧型電車』と称し、種々雑多な旧型車両が3000系列という新車体に生まれ変わる過程を掲載しています。

特に戦前からの東武鉄道の旧型電車を、多数の写真で順を追って解説するなど「東武旧型電車の入門書」としても最適! ぜひお手に取ってご覧ください。いずれも好評発売中です。

■著者:稲葉 克彦(いなば かつひこ)

■各巻B5判/全56ページ

■定価:各巻1,485円(本体1,350円+税)

◆書誌情報はこちら

▼RML271『生まれ変わった東武旧型電車(上)』

▼RML272『生まれ変わった東武旧型電車(中)』

▼RML273『生まれ変わった東武旧型電車(下)』

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