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特集・コラム

鉄道でよく耳にする「機器更新」なぜ必要?更新によって消える「音」とは?

2023.09.25

▲機器更新を終えたE231系800番代。

‘23.8.23 東北本線 東大宮~土呂 P:玉木裕一
(鉄道投稿情報局より)

鉄道投稿情報局・今日の一枚への写真投稿はこちら!

 鉄道の話題を追っていると、「機器更新」という言葉を目にする機会が多いかと思います。いずれも登場から10〜20年ほどの車両が対象となる傾向が多く、確かにまだまだ現役で使えそうです。ただ、どういった機器を更新しているのか、そもそもなぜ更新の必要があるのでしょうか。

■日進月歩の半導体技術

▲機器更新のため秋田総合車両センターへ配給輸送されるE231系800番代。

‘23.9.20 武蔵野貨物線 別所信号場〜大宮操車場 P:佐藤 峻
(鉄道投稿情報局より)

 現代における鉄道車両のモーター制御の主流であるVVVFインバータですが、これらの半導体技術は時代と共に目まぐるしく進化をしています。普及し始めた黎明期では「GTO(ゲートターンオフ)サイリスタ」と呼ばれる素子が主流でしたが、90年代頃よりより省エネ性能も高く、かつ低騒音な「IGBT(インスレテッドゲートバイポーラトランジスタ)」が鉄道車両で普及していきます。そしてこの進化は止まることはなく、現在では従来のSi(シリコン)よりさらに高性能で大電圧にも耐えられる「SiC(炭化ケイ素)」を材料に用いたVVVFインバータを採用した車両も徐々に見られるようになってきました。

▲E231系800番代は、VVVF装置をはじめ、SIVやTIMSを含む機器更新が実施されている。

‘23.8.23 東北本線 東大宮~土呂 P:玉木裕一
(鉄道投稿情報局より)

 このように、現在鉄道車両で使用される機器の進化は日進月歩であり、車体や台車は問題なくとも、こうした世代交代の激しい電子機器は登場後数十年で陳腐化・消耗したり、より性能の高い代替品が出回るようになるため、保守の面でも定期的に機器更新を行なう必要が出てきます。また、旧来のサイリスタチョッパ制御や界磁チョッパ制御、界磁添加励磁制御の車両をVVVFに換装する例もあります。

■更新により変わる「音」

▲機器更新により、「ドレミファインバータ」ではなくなった京急2100形。

‘12.8.31 京浜急行電鉄本線 六郷土手 P:西 陽介
(鉄道投稿情報局より)

 先述の通り、GTO素子を採用したVVVFインバータの車両は、特徴的な大きいサウンドを奏でることが多くありました。京急1000形・2100形や、JR東日本E501系などで有名なシーメンス製の「ドレミファインバータ」もGTO素子を採用したVVVFインバータの一つです。それに比べ、近年の電車は従来と比べて大幅に音が静かになりました。GTO素子からIGBT素子の機器へ更新された際に、それまでの大きな音が突如静かな音に変わる…ということもあります。

▲機器更新を伴うリニューアル施された阪急8300系。車番の移設などで前面廻りの雰囲気も変わっている。

‘23.4.6 阪急電鉄京都本線 大阪梅田駅 P:小原 正裕
(鉄道投稿情報局より)

 一般利用者目線からだと、音が静かになることは大いに歓迎されるべきことですが、GTO素子の特徴的なサウンドをこよなく愛するレイル・ファンも数多く、更新を前に音を「録り納め」する方もいるほどです。現に、GTO素子のVVVFインバータを搭載している車両は年々減少しており、力強ささえ感じるサウンドは近い将来完全に過去のものとなっていくことでしょう。

 また、IGBT素子のVVVFインバータを搭載した車両でも、近年では登場から15〜20年程度が経過した車両が増え始め、現在ではIGBTからIGBTへの更新というのも珍しくない事例になりました。その際、同じIGBT素子のVVVFインバータでも、更新によって従来とは異なるインバータを搭載することで音が変化する、ということもあります。

 鉄道車両の記憶というものは、その見た目だけではなく「音」もまた重要なポイントの一つであることが多いです。写真には写らない音ですが、今はスマホで簡単に録音や動画を撮ることができるようになりました。常に進化し変わり続けるVVVFインバータの音が持つ、ある種の刹那的な魅力がレイル・ファンたちを強く惹きつけるのかもしれません。

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