text:鉄道ホビダス編集部
普通、鉄道の駅というのは、言うまでもなく改札を抜けてその街や地域に降り立つことが大前提になりますが、世の中には一般の旅客は改札はできたとしても、駅の外へ出られない… なんていう駅も存在します。
■駅の外は「敷地内につき」立ち入り禁止
鶴見線海芝浦支線の終点である海芝浦駅。駅は1面1線の簡素な構造で、3両編成の列車が1〜2時間に数本程度、10時台と14時台に至っては0本と、横浜市内とは思えないほどのローカル線風情を漂わせています。その理由として、この海芝浦駅は駅に直結している東芝の事業所のための駅という側面があり、ダイヤ自体も関係者の利用を中心に考えられています。さらに、駅舎入口がそのまま事業所の門も兼ねていることから、関係者でなければ駅舎の外へ出ることはできません。一般の利用者がこの海芝浦駅に降りてできることは、簡易改札機を使って折り返し列車に乗車するための改札や、自販機の利用、駅に隣接した私設公園である「海芝公園」に入ることくらいです。
■その景色の良さから「関東の駅百選」に
これほどまでに立ち入れる場所が制限されている駅というのもなかなか例がなく、こうした面で注目されることも少なくないですが、何よりこの駅はホームから見える海の景色が有名です。駅を降りると眼前には視界いっぱいの海が広がっており、また鶴見つばさ橋も一望できることから、近年では絶景スポットとして度々メディアで取り上げられるようになりました。平日は事業所関係者の最寄り駅として機能しますが、休日はホームからの景色を見に来たり、隣接する海芝公園に訪れる観光客で賑わうこともしばしば。2000年にはその景色の良さから「関東の駅百選」に選ばれています。
レイル・ファン諸氏であれば「駅に行くこと自体が駅に行く目的」ということも多いと思いますが、この駅はその性質上、事業所関係者でなければ絶対に駅に行くこと自体を目的にせざるを得ません。そんな中で、休日は絶景を見に来た観光客で賑わうというのは、この駅ならではの人々を惹きつける力というものを感じます。
■景色のピークは冬場の夕焼け
この駅は日中に訪れても爽やかで気持ちがいいですが、景色の狙い目は晴れた日の夕方。駅を降りて海を改札口方向に望むと、ちょうど西の方角となり、沈みゆく太陽を見ることができます。空気が澄んでおり、これから訪れる冬場の晴れた夕方であれば、日没直前〜直後に現れる「マジックアワー」と言われる空の美しいグラデーションと、それを反射する海と車両を見ることができるでしょう。車両の方はステンレスなため、空の色をしっかり反射するのも見所の一つです。
そんな鶴見線自体も、車両の世代交代が始まることが決定しており、首都圏で細々と生き残った205系もいよいよ最後の活躍となりそうです。車両だけではなく駅それぞれに独特の雰囲気や歴史がある鶴見線。週末のプチ旅行気分を味わいに訪れてみてはいかがでしょうか。