7月15日のデビューを控え、着々と準備が進む東武鉄道の新型特急「スペーシアX」。試験走行や試乗会、駅の一部改修などが行われ、日増しに期待感が高まっていますが、実車よりも先にデビューするスペーシアXがあるという知らせを聞き、埼玉県立春日部工業高校を訪問してきました。
先にネタバラシをすると、今回取材をさせてもらったのはN100系を忠実に再現したミニトレイン。なんと高校の授業の一環として、東武鉄道の協力も得ながら製作されたものだそうです。
東武伊勢崎線の北春日部駅の目の前。東武鉄道の北春日部車両基地にも徒歩数分で行ける距離に春日部工業高校はあります。取材当日は平日の午後ということもあり、授業や実習に取り組む生徒さんの真剣な様子を垣間見ることができました。
ミニトレインの制作を指導している津野先生に案内いただきながら校内を歩くと、長い廊下の一角に、実車と同じ6両編成のスペーシアXが現れました。この時点では写真で見ることはあっても、実車と対面する前だったので、編集部にとってスペーシアXとの初対面はこのミニトレインとなりました。
まず印象に残ったのは滑らかなボディラインです。FRP製の車体は型の削り出しから生徒さんが行い、細かな修正を繰り返しながら作り上げたとのこと。また、複雑な形のガラスを使用した運転台まわりや“X”をイメージした側面窓は、手作りのカッティングシートで再現され、連結器およびスカートは3Dプリンタによる造形だそうです。
多くの場合、図面をもとに各部寸法を確認しながら造形を整えていくそうですが、今回は実車の開発と並行して作業が行われたこともあり、詳細データの提供を受けることができなかったそうで、主に写真をもとに製作を進めたというから驚くばかり。
動力は250Wのモーターを4基設置。「一般的なミニトレインよりもオーバースペックにしていますが、これは電磁ブレーキとしての役目も担うことから、大勢が乗っても確実に減速できることを重視しました」とのことで、作るだけでなく、多くの人に楽しんでもらうことまでをも想定した仕立てというわけです。
話は多少前後しますが、春日部工業高校のミニトレイン製作は、これが初めてではありません。同校には機械科、建築科、電気科の3コースがあり、それぞれ各分野のプロフェッショナルを目指す若者を育成しています。普段の授業でも実習を交えた実践的なカリキュラムが組まれていますが、3年生になると15名ほどのグループに分かれ、授業で得た知識と経験をもとにした「課題研究」に取り組むことになるのだそう。
ミニトレインの製作課題は2011年に「ミニ新幹線はやぶさ」から始まり、その後は1~2毎に新たな車両を作り、県内のイベントなどで子どもたちに乗って楽しんでもらう活動を行っているそうです。また、学園祭では建築科の生徒さんが作った駅舎と組み合わせたレイアウトも披露したそうで、日々の学びを形にして、さらに訪れる人を喜ばせる経験は、他ではなかなかできない貴重なものではないでしょうか。
これまでに製作された車両は、ドクターイエローやSL大樹、東武500系リバティといった実車のモチーフがあるものから、HK50なるオリジナルのディーゼル機関車まで様々。「ミニトレイン」という大枠は決まっていても、毎年参加する生徒さん自身が課題を決めて取り組むだけでなく、イベントに参加した際は会場での設営やお客さんを乗せる運営までも行うことから、コミュニケーション能力の強化にもつながっているようです。
さて、今回ご紹介したスペーシアXのミニトレインですが、みなさんにも乗車のチャンスが控えています。6月18日に東京スカイツリータウンのソラマチひろばで開催される「スペーシアXカウントダウンイベント」にて、乗車体験企画が用意されているとのことで、誰でも無料で乗ることができます。実車デビュー前にこのミニトレインに乗って気分を高めてから、本物に乗るというのはいかがでしょうか。
なお、今年度はSL大樹のライブスチーム製作にチャレンジし始めているという春日部工業高校の鉄道課題研究チーム。東武鉄道の協力もあって、実物を見ながら蒸気機関車の仕組みを学べる場も設けられたそうです。技術継承が難しいとされるSLですが、その担い手が同校の卒業生から出てくる日も近いかもしれませんね。
■鉄道課題研究チームの活動報告はこちら!
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