modeling & text:屋鋪 要
photo:羽田 洋
戦前の東海道本線を最高時速95km/hで疾駆し、「超特急」 と謳われた特急「燕」。東海道特急としては「富士」「櫻」に次 ぐ登場ではありましたが、東京~神戸間9時間という俊足はそれ までにないもので、水槽車の連結による長距離無給水運転 や走行中の補機解放・乗務員交代など、その高速化にかけ る執念は今なお伝説的に語られています。また、戦後はC62牽引で東海道本線の花形特急「つばめ」となり、最後尾には戦前から続く展望車なども連結されていました。今回は元プロ野球選手であり、現在では鉄道趣味人として名高い屋鋪 要さんが作った戦前のC51牽引時代の「燕」と、戦後C62牽引時代の「つばめ」をご紹介します。
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■戦前の花形特急「燕」
特急「燕」は1930(昭和5)年10月1日に東京〜神戸間で運行を開始しました。牽引機は1919(大正8)年、のちの鉄道省〜国鉄となる当時の鉄道院が、高速旅客用大型機として製造したC51(旧形式18900)が充てられ、客車には荷物と三等客室の合造車+三等車2両+ 食堂車+二等車2両+一等寝台車の7両編成か らなっていました。午前9時に東京を出発する 下り11列車は、横浜・国府津・名古屋・大垣・京都・大阪・三ノ宮の停車駅を経て、18時に終着の神戸へ。所要時間は9時間ジャスト。一方昼の12時25分に神戸を出発する上り12列車は、三ノ宮・大阪・京都・名古屋・沼津・横浜に停車し、8時 間55分で東京までを結びました。
「燕」用の専用機として用意されたのはC51 171・208・247・248号機の4両。専用機は 東京〜名古屋間での長時間停車を省くため無給水運転とされ、テンダーの水槽容量を17立方メートルから、C52用であった20立方メートル容量のテンダーに交換された上に、30立方メートルの容量を持つ水槽車を連結しました。この水槽車を機関車の次位に連ねて、走行中にテンダーに水を送り込むことで、給水のための停車時間を短縮することに成功したのです。
そんな超特急「燕」の編成にいつかは挑戦しよ うと長い間温めてきた思いですが、このたびようやく実現しました。 C51 171・248と水槽車はワールド工芸の完成品を購入。C51のテンダー側カプラーを KATOが販売するマグネマティックカプラーの 「MT-7」(品番11-710)に交換。形式入りナンバープレートは多少大きく思えますが、見映えを優先してレボリューションファクトリー(以後RLF)製で171号機にしました。
スハニ35650とスハ32600×2両はMODEMO の完成品がベースで一部の床下機器類を変更。 食堂車のスシ37740とスロ30750×2両、さら には運転開始時に最後尾に連結されていた一等 寝台車マイネフ37230、そして一年遅れで連結された展望車スイテ37020の5両を、RLFのエッチング・コンバージョンキットで組み上げ、車番のほか標記類もRLFのインレタを使いました。
ダブルルーフで統一された客車編成は荘厳かつ優雅です。さらにスシ37740、マイネフ37230、スイテ37020の3軸台車が、昭和初期のこの時代らしい重厚さを感じさせます。機関車次位に連結される水槽車の運転期間は約1年半ではあったものの、水槽車を連結した超特急「燕」は、この時代の花形列車そのもので した。
今回のマイネフ 37230とスイテ37020は、キングスホビーのダブルルーフパーツとTR73台車を入手して慎 重に組み上げたもので、仕上がりは上々だと思 います。 マイネフ、スイテの両一等車の白帯の太さはどの程度にするか?いろいろ思案しました が、答えは本書発行元のネコ・パブリッシングの『RM LIBRARY 200 日本の展望車』の中にありました。かの西尾克三郎氏が、スイテ 37020形の実車を撮り遺してくれているではありませんか。等級帯は愛称札凹形札差の下方まで白く塗られています。モデルならいつまでもこの、美しい白帯の姿を楽しめます。
■戦後、栄光のC62牽引となった「つばめ」
戦後の日本の経済成長の姿は、鉄道車両史から も垣間見ることができます。特に顕著に表れてい るのが、時代の技術の粋を結集した車両が投入さ れた特急列車でしょう。本線を行く往時の特急編 成は、今なお写真でその威厳を感じ取ることがで きます。
そんな中1971年の夏に、函館本線で撮影をしたC62の急行「ニセコ」は、私にとってその後の趣味人生を決定付けた、鉄道撮影最高の想い出です。そんなこともあり、C62は最も憧れる機関車なのです が、「つばめ」や「はと」はもちろん、ナハ11を組 み込み京都〜博多間を結んだ「かもめ」、「あさかぜ」の20系ブルートレイン、東北筋の「ゆうづる」 「はくつる」などC62が最も輝いていた時代には私は生まれておらず、見ることのかなわなかった列車への思いは募るばかりでした。それに対する回答として「模型ならば形として手に取り、眺めることができる」という思いに至りました。
優等列車の代表格の「つばめ」は大阪行き・東京行き共に、機関車次位はスハニ35、そしてスハ44が5両続き、食堂車マシ35を間に挟んだ5両のスロ60がつながります。しんがりはダブルルーフ、3軸台車の展望車マイテ39が務める堂々たる 編成です。牽引機は東海道型C62の「下がりつばめ」こと18号機と選択式ナンバーを17号機とした2両で編成は完成。しかし、それだけでは満足しきれず、「つばめ」の歴史を辿ると機関車次位にスハニ32、三等車にスハ32・スハ43、食堂車は3軸台車のスシ37などが組み込まれていたことを知り、その編成も模型で組んでみたくなり、いろいろ買い集め手を加えてみました。
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自分で手を加えて作り上げていく編成は、完成品そのままのものとは違った喜びがあるものです。細かなことをいえば、まだいくらでも改善点はあるのですが、走らせてしまえば車番も標記も気にするほどでないかと思います。
これからの課題はエッチングキットを綺麗に仕上げること。レボリューションファクトリーの キットで、ダブルルーフにリベットで覆われた車体と三軸台車が魅力的な昭和初期から戦前にかけ ての客車のラインナップは、いつかものにしたい 車両たちです。グリーンマックスの製品ではスロ53とスロ54の再生産が途絶えているので(編注: 記事初出時の状況)これは是非とも期待したところですし、マイクロエースの豊富なラインナップ も編成を完結させるためになくてはならない製品たちです。 鉄道模型の趣味は果てしなく夢が拡がり、私にとって終わりなき道楽となってきました。
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屋鋪 要の鉄道模型 縦横無尽
本誌ではNゲージによる150年前の開業当時の新橋駅から、屋鋪さんの思い出深い各地のジオラマを製作披露するほか、戦前の特急「燕」から、20系ブルートレインまでをNゲージで編成中の一部の工作をし編成を再現。
また、各地の鉄道模型レイアウトを求めて訪ね歩きレポート。そのほか1:80スケール(16番モデル)の戦前型ダブルルーフ客車のキットを使い、「燕」編成の製作では、手スリの一本から、扉の取っ手まで再現するなど、一か所一か所丁寧な製作を紹介。プラキット入門者に向けた格好の指南書ともなるでしょう。