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山手線の近未来は「ドライバレス」…ATOの日中試験に乗りました!

2022.02.26

text & photo:RM
取材日:’22.2.25 場所:山手線外回り車中、東京総合車両センター
取材協力:東日本旅客鉄道

 JR東日本では、近未来の「ドライバレス運転」の実現のため、山手線のE235系を用いてATO(自動列車運転装置)の実用化を目指した各種試験を行ってきました。3年前となる2019年1月にも終電後の夜間の試運転の報道公開があり、その時もRMでは取材しています。あれからどのくらいの進歩・進捗が見られたのでしょうか。

▲2019年1月の試験は、終電後、営業列車が居ない中で行われました。’19.1.7 P:RM

 2019年時点での試験は、「加速、定速走行、減速、定位置への停車などの運転機能の試験」をテーマとしていました。いわゆるATOとしての最低限の機能、といったところで、まだ減速時の衝動など、「人による運転には敵わないな…」という印象だったようです。

▲本日の試験は日中、営業列車の合間を縫って、外回り2周(東京総合車両センター~大崎~(外回り2周)~大崎~東京総合車両センター)で運転されました。

 あれから3年、今回体験できたのは、客室に乗っている限りは人が運転しているのとまったく変わらないスムーズな加減速でした。さらに、駅に停まるごとに所定位置とのズレがアナウンスされるのですが、多くても10センチちょっと。許容範囲はプラスマイナス35センチとされているので、もう十分合格点です。ベテラン運転士の助言を得て、その運転パターンをよく分析して取り込むことで、正確性と乗り心地を両立させているとのこと。また、何より終電後ではなく一般の営業列車の合間を縫っての試験運転ということに、信頼性への自信も窺えました。

▲発車時に、運転士は緑色のボタンを押すのみ。このボタンは本来は別用途のものですが、今回はその機能を振り当てたものだそうです。

 実際に走行するところを見せていただきますと、運転士は駅を発車する際、右手のボタンを押します。これがATOに発車の指令を出すという意味になっており、あとはプログラム通りに電車が加速。一定のところで惰行に入り、駅の手前で減速、所定位置でピタリと停まる…その間、運転士がしたことと言えばEB装置(運転士が急病や居眠りなどで正常な運転ができない事態を防ぐため、約1分ごとに警告音が鳴る仕組み)の確認ボタンを押すくらいでした。

▲新橋駅に進入したところ。普通であれば、運転士が最も緊張を強いられ、繊細なブレーキ扱いをしている瞬間ですが、ご覧の通り「手ぶら」状態で前方を注視するのみ。

 さて、このような自動運転を実現することによるメリットはどういうことでしょうか。

 短期的には、運転士の肉体的・精神的負担が減り、「はたらき方改革」につながる生活の質の向上が期待できるでしょう。精密な加速・減速操作に神経をすり減らすことなく、安全運行にだけ重きを置いて乗務すれば良いというわけです。

▲ランカーブがリアルタイムで表示されるディスプレイが車内に設置されていました。指差されている赤いカーブはブレーキ圧、その上の青いカーブは車両の速度です。マニュアル運転では通常7ノッチのブレーキが、1段ごとに4分割され、28ノッチで制御されているとのこと。

 次のステップでは、運転士としての資格(免許)を持たない人でも乗務が可能になります(=ドライバレス)。少子化の進行で、近未来に乗務員のなり手が減少することは間違いありません。最低限の安全教育くらいで乗務が可能となれば、今のように何年もかけての人員教育も不要となります。次のステップでは当然完全な無人運転…と思うところですが、JR東日本としてはそれは今のところ視野には入れていないそうです。

▲省エネ運転のランカーブを説明してくださった、運輸車両部次世代輸送システム推進センターの鈴木次長。図の青い線が従来のランカーブ。赤い線が省エネとなるランカーブ。惰行時間を長くすることが省エネの肝で、その分、減速度を強めるための技術開発が必要とのこと。

 別の面でのメリットもあります。それは持続可能な社会実現のための省エネが図れるというもの。従来の標準的な運転に比べて、やや低めの速度で惰行に入り、その代わりブレーキを強めにかけることで所要時分を変えずに約10%もの省エネが可能とのこと。実際、本日の試験運転でもブレーキの掛け方は通常のマニュアル運転よりも強めの設定になっていたのですが、それを乗っていて感じることはありませんでした。こうした高度な運転が乗務員の技量と関係なくすべての列車で実現すれば、それだけ省エネ効果も大きくなるというわけです。

▲試験運転終了後、ATO実用化への意気込みを語る、JR東日本の市川副社長。

 実はATO自体は既に一部の地下鉄路線や新交通システム、つくばエクスプレスなどでは営業運転として実用化されています。今回のJR東日本のATOは、ゆくゆくはATACS(無線式列車制御システム)との連携を図り、地上設備のスリム化・信頼性向上を図り、乗客にとってストレスが無く、従業員にとっても過度の負担がなくなる社会を目指しているようです。つまり伸びしろの大きな技術の一端に触れた…というのが今回の取材ということになりましょう。

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