185系

特集・コラム

大井川鐵道の「EL急行」、なんでカイロが配られたのか?

2022.02.08

text & photo:三ツ矢健太
撮影日:’22.1.29

 静岡県の大井川鐵道は日本の蒸気機関車動態保存運転のパイオニアだ。「SLやまぐち号」よりも3年先んじる1976年の営業運転開始で、現在も4両の蒸機が車籍を有し、オフシーズンにも比較的高頻度で運転が行われている。近年は「きかんしゃトーマス号」「きかんしゃジェームス号」などとして運行が行われているのもご存じの通りだ。

▲新金谷駅にて発車を待つ「ELかわね路号」と南海21000系の普通列車。

 しかしこの冬は、検査などの都合で「SLかわね路号」がELによる代走で「ELかわね路号」となって運行されている。今や電気機関車が牽く客車列車というのはSL列車以上に希少価値が高いとも言え、この機会にぜひ味わっていただきたい…のだが、実は注意しなければならなない点がひとつある。

▲JR西日本から譲渡された「SLやまぐち号」用12系レトロ客車が新金谷駅側線に留置されていた。こちらは客車に発電エンジンを搭載しており、冬でも夏でも空調完備なはずだが、まだ入線のための整備は進んでいないようだ。

 それは、この列車には「暖房がない」ということだ。「イマドキそんな列車があるの?」と思われる方もいるかもしれない。

▲当日千頭方3号車に連結されていたスハフ42 186。完全切妻車体で重厚なTR47台車を履く。

▲スハフ42 186の車内。ペイント仕上げの近代化改装仕様だ。背ずりの通路側に「頭もたせ」が付いている。

 しかし、旧型客車時代の暖房がどういうシステムだったかというと、蒸気機関車のボイラーで発生する蒸気の余力を客車に回して、スチーム暖房を行っていたのだ。大井川での「SLかわね路」の暖房ももちろんそれである。この伝で言うと、蒸気発生源のない電気機関車が牽く客車列車には、暖房がないのは当然のこと、ということになる。

▲大井川の旧型客車の中でも極めて特異な形態である2号車・オハ35 149。通常窓上にあるウィンドウヘッダーが無い、「ノーヘッダー車」だ。

▲ニス塗りの車内がよく維持されている、オハ35 149の車内。照明は蛍光灯化されている。

▲新金谷方1号車のオハフ33 469。戦後に製造され、妻板形状が「キノコ型」になっているタイプだ。

▲オハフ33 469の車内。近代化改装されてはいるが、先のスハフ42と異なり「頭もたせ」を持たない。

 無論、国鉄時代の旅客用電機・DLには何らかの暖房装置が搭載されていたため、蒸機が牽かない場合でも暖房は効いていたし、現在各地で動態保存されているSL列車用の客車は、発電用エンジンを搭載することで独自に冷暖房を行うものが多い。

▲タイル張りの洗面所。

▲環状蛍光灯と扇風機が並ぶ天井。旧型客車ならではの深い形状だ。

 大井川鐵道の電機はいずれも元の用途が貨物用・事業用であったために暖房装置を搭載していないのだが、なんでも便利になる以前の鉄道がどんな姿だったのか、車中で配布される使い捨てカイロを握りしめながら、改めて思いを至らせる機会になった。

▲当日の牽引機は西武から譲渡されたE31形34号機。客車3両というのは、同機が単機で牽引できるギリギリの両数とのこと。

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