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特集・コラム

シーナリー散歩 Scene:4-2 天竜浜名湖鉄道 天竜二俣駅(その2)

2021.06.13

取材日:’21.4.15
text & photo(特記以外):羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル 取材協力:天竜浜名湖鉄道

 レイル・マガジンで好評連載中の「シーナリー散歩」。全国の鉄道路線を訪ね、思わず模型にしてみたくなるような魅力的なシーナリーを見つけてご紹介しております。2021年7月号では連載第4回として天竜浜名湖鉄道の前編として天竜二俣駅を取り上げました。WEB編の2回目では、同駅併設の車両基地内の施設を紹介してまいります。

▲写真右手が運転区事務室、左手が浴場や休憩室。奥に高架貯水槽がにょっきり顔を出している。

 この車両基地、駅ホームからは上り方(掛川方)へ300mほど離れた位置にあり、駅ホームから複雑な引き上げ線配線を通して接続されています(何度かスイッチバックしないと入出庫できない配線)。一般の方向けに開催されている施設見学ツアーに則って、今回は駅ホーム付近から通用門を経て敷地外へ一度出て、運転区詰所付近にある入り口から再度鉄道用地にお邪魔する形で取材を行いました。

▲コンクリート製の高架貯水槽。容量70トン、高さ11m超。

 まず見えてくるのはこの周囲では比較的背の高い建造物と言える高架貯水槽。コンクリート製のタンク体は外径6m、地面からの高さは11.6m、容量は約70トンとされています。6本脚も同じくコンクリート製で、建造は同線開通と同時期の1940年頃。高架貯水槽、趣味的には給水塔と呼ぶことが多いと思いますが、これがコンクリート製であること自体も案外珍しいのではないでしょうか。

▲写真中央の、木に半分隠れている建屋が乗務員宿泊所で、今も宿直の方が実際に使っている。

 その足元には木造の建築が3列並んでいます。向かって右手、敷地の縁に近い方に位置する平屋の建屋は乗務員宿泊所で、今でも宿直の職員の方が実際に宿泊に使っているそうです(内部の取材はそういう事情ですのでご遠慮)。

▲写真左手が運転区事務室、右手が休憩室、浴場など。要所に屋根が渡されて雨天でも人が行き来できるようになっている。

 中央に長く連なる平屋の部分は、休憩室、湯沸所、青写真室、便所、浴場です。左手の運転区事務室が鉄道業務の中枢だとすると、一息入れたり汗を流したり、職員の福利厚生を担うスペースだったと言えるでしょう。運転区事務室との間には要所に屋根付きの渡り廊下状になった部分があり、さらに手入れされた植栽もあって実に昭和期らしい雰囲気が残されていると感じます。

▲既に使われていないものの、浴場は施設見学時のハイライト。タイル張りの「裸の社交場」。記念ヘッドマークが展示を兼ねて収蔵されている。

 特にハイライトは浴場で、タイル張りで擦りガラスに囲まれたなかなか気持ちの良さそうなお風呂。既に実用には供されておらず、記念ヘッドマークの収蔵・展示スペースとなっています。蒸気機関車の時代、一日の労働の終わりに煤と汗を流すことがどれだけ鉄道現場職員の方の士気を上げていたのか…そんなことが想像できました。

▲鉄道神社は現役の職員からの信仰も厚いようだ。

▲小さな池に架かる小橋。植木の類もちゃんと手入れされている。

 ここを抜けると小さな祠があって、これは鉄道の安全を祈願する鉄道神社です。その足元には小ぶりな池も整備され、アーチを描く小橋も架けられています。効率一辺倒でない、丁寧に生活していた昔の日本人の息吹が感じられましょう。

▲運転区事務室の2階建て部分を線路側から見る。こちら側から見る施設は、緊張感ある鉄道現場の顔だ。

▲上写真の左につながる平屋建て部分。腕木式信号機のモニュメントも立っている。

▲運転区事務室の、休憩室に面する側には洗濯物が干されていたり、少し職員の方の生活臭が感じられる。

 運転区事務室は一部二階建てで、こちらは内部も含めて現役施設。職員の方の制服の洗濯物が干されていたり、仕事と生活の距離が近いことも窺わせます。窓や扉がアルミサッシ化されているようなこともなく、かつての木枠の扉・窓枠がほぼ維持されていることも特筆されるでしょう。なお、これらの木造建築の多くは板が縦張りとなっていました。駅舎もそうでしたが、模型レイアウトではステレオタイプ的に下見板建築が多くなりがちなだけに、筆者は参考にするところ大であると感じました。

 次回は車両区のハイライトと言えるターンテーブルと扇形庫などを見ていきましょう。

🔶レイル・マガジン2021年7月号(449号)新刊情報

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