185系

特集・コラム

シーナリー散歩 Scene:4-1 天竜浜名湖鉄道 天竜二俣駅(その1)

2021.05.30

取材日:’21.4.15
text & photo(特記以外):羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル 取材協力:天竜浜名湖鉄道

 レイル・マガジンで好評連載中の「シーナリー散歩」。全国の鉄道路線を訪ね、思わず模型にしてみたくなるような魅力的なシーナリーを見つけてご紹介しております。2021年7月号では連載第4回として静岡県の天竜浜名湖鉄道を取り上げました。本連載で初めて第三セクター鉄道を取り上げたのですが、シーナリー観察の観点から言うと宝庫であると改めて実感しました。経営移管時に車両は軽快気動車などに一新されることが多いのですが、設備面では看板や各種表示類を除くと案外従前のままとされることが多く、今なお古くからの国鉄ローカル線らしさを残している鉄道が多いのです。逆にJRに残った同規模のローカル線の方が、設備更新は進んでいる部分があると思います。

▲2・3番線に停車中のTH2100形気動車。全面ラッピング広告車が多く、営業努力が窺える。

 その中でも天竜浜名湖鉄道は実に36件もの文化財登録物件が存在。古きものを大切に維持し、現役として活用しているのは本当に頭が下がる思いです。これらを丁寧に見て行こうと思うとまず1日では回り切れず、誌面での連載も2回に分けて掲載します。RM449号の「前編」では、路線の中枢駅である天竜二俣駅を取り上げました。WEB編でも同駅とその周辺を数回に分けて紹介してまいります。

▲イラスト:遠藤イヅル

 さてそもそも天竜浜名湖鉄道(天竜浜名湖線)とは。東海道本線掛川駅から分岐して一路北方の山側へ進路を取り、天竜川上流の天竜二俣駅付近で南方へ進路を変え、浜名湖の北岸をかすめて東海道本線新所原駅にて合流する、営業キロ67.7kmの路線です。路線の起終点が東海道本線に接続し、大きく山側に迂回するルート…という点では、本連載第1回で取り上げた御殿場線に近いようにも感じますが、その成り立ちはまったく異なります。御殿場線が当初は東海道本線そのもので一時期は複線の高規格線路だったのに対し、天竜浜名湖線は今に至るまで終始全線単線で、高規格であったことは一度もありません。

 その理由は、天竜浜名湖線の前身である鉄道省二俣線が建設された経緯にあります。時は戦時色が強くなった昭和初期。軍部は東海道本線の浜名湖付近が海岸線に近く、もしもここが艦砲射撃などで破壊されたら物流の大動脈が使えなくなる…いざという時のためのバイパス線が必要だ、と考えました。急ピッチで建設が進められ、全通は1940年。実際に迂回輸送にも数回活用されたという記録があります。とはいえ、二俣線の主力蒸機はC58形で、D51形などは線路規格の関係で入線できなかったため、果たしてどの程度の補完ができたのでしょうか…。

 戦後は国鉄二俣線として地域輸送に勤しんできましたが、赤字路線として廃止の対象となり、1987年3月、国鉄民営化を目前とした時期に天竜浜名湖鉄道へ経営を移管。以後、新駅の設置や観光客誘致にも努め、現在に至ります。近年はアニメ作品の舞台として描かれることも多く、「聖地巡り」でも賑わいを見せているようです。

▲天竜二俣駅駅舎外観。この写真左手に同社本社社屋が続いている。

▲駅舎右側面を見る、丸型郵便ポストも健在だ。

 さて、天竜二俣駅を見て行きましょう。同社本社および車両基地もここに併設され、当駅始発列車も当然設定されています。開設時の駅名は「遠江二俣(とおとうみふたまた)」で、天竜浜名湖鉄道移管時に現駅名に改称。駅舎は路線開業時以来の木造平屋建てで、左手に本社社屋、天竜区観光協会の建物まで一続きになっているように見えます。羽目板は縦張りで、マホガニー系で彩色。

▲待合室にはしゃれた丸テーブル・椅子も設置されている。天井が高いのが印象的。

▲駅舎背面から、2本のホームの方向を見る。手前の簡易的レールは足漕ぎトロッコ用のもの。

▲1番線(上り方向の列車用)から、下り方向を見る。構内踏切でホーム間連絡をしている。

▲1番線ホームは片面のみ(写真右手)が線路に面しているが、写真左手の方も構造的・立地的にかつて乗り降り出来たようにも見える。ホーム屋根も全木造で規模も大きな立派なもの。

▲1番線ホームから駅舎背面を見る。写真奥の方にかつて貨物ホームがあり、足漕ぎトロッコの線路の位置には貨物列車が走っていた。貨物ホームがあった場所は現在は駐車場となっている。

 駅舎内にはラーメン店や売店も設置され、待合室も大き目。待合室は天井も高く、かつての国鉄駅らしさを感じさせます。改札を抜けたところ、駅舎に面して足漕ぎトロッコ用レールが設置されていて、2面3線の旅客ホームへは構内踏切で移動。このホームは構造的には2本とも島式に見え、かつては2面4線だったのでは…?と思わせるのですが、確証が取れていません。ホーム屋根は木柱2本脚の傘型屋根様式で、これももちろん文化財登録。ホームは常用する部分は嵩上げ済ですが、常用されない部分では非常に低いものが残されています。

▲駅構内に保存されているナハネ20 347。

▲同じく駅構内に保存されているキハ20 443。

▲駅前の「機関車公園」に保存されているC58 389。

 さてこの駅と周辺には国鉄車両の保存車が3両も置かれているのが見逃せません。駅構内の下り寄りにナハネ20 347とキハ20 443の2両、そして駅舎とはロータリーを挟んで対面にある「機関車公園」にC58 389が、いずれも比較的良好な状態で保存されています。構内の2両は「天竜レトロ・トレインクラブ」の皆さんがボランティアで維持活動を行なっているもので、取材時は2両とも再塗装されたばかりだったようで非常に美しい状態でした。20系客車は二俣線で運行された実績はありませんが、キハ20の方は新製から廃車まで一貫して同線で働いた生え抜きの車両です。

🔶レイル・マガジン2021年7月号(449号)新刊情報

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加