製作:瀧口宜慎
photo:羽田 洋
情景のあるレイアウトの製作は鉄道模型を始めた人すべての憧れ。ですがレイアウト全体のジオラマはそれなりに広いスペースを取るため簡単には作れません。そこで今回はフロアレイアウトにも手軽に組み込めて、普段は展示台にできる小さな油槽所ジオラマをご紹介します。
■はじめに
情景付きのレイアウトを作るとき、まずは鉄道に近接した施設をテーマにしたいと思う人は多いはずです。ですが、駅施設などになるとそれなりな大きさを取ってしまうのも事実。
「もっと手頃なスペースで、押したり引いたり、連結や解放など鉄道ならではの運転を楽しみたい!」
そんな場所を求めて行きついたのが石油タンク車の油槽所でした。駅構内や少し離れた引込線で重いタンク車を押し込んだり、引き出したりと出したりとまだ実物でも見られる光景です。
この施設を小さなセクションとしてフロアレイアウトに組み込んで、床の平原から一歩踏み込んだ運転を楽しみたいと思います。
■「油槽所」とは
まず、油槽所とはタンク車から抜き取った石油類を一時的に貯蔵し、タンクローリーへと乗せ出荷させるための施設です。
石油が全国各地に配送される流れは、産油国からタンカーで運ばれた原油が臨海部の製油所で陸揚げ・精製され、ガソリンや軽油など用途ごとの油に分けられます。
この製油所から近隣にはタンクローリーに、遠方へはタンク車で組成された貨物列車で各地の油槽所に送られ、そこでタンクローリーに積み替えられて街のガソリンスタンドをはじめとする需要所に配達されます。
■各種施設を製作する!
●石油貯蔵タンクについて
施設内で存在感を発揮する石油貯蔵タンクは、塩ビパイプの継手(外径67mm、高さ50mm)をベースとしています。塩ビ表面の品番やメーカーの刻印をヤスリと耐水ペーパーで削り落としますが、元からあるパーティングラインは、実物のタンクの溶接継ぎ目のように見えるため残しておきます。
タンク天面は実物では円錐形か浮屋根となっていますが、模型では雰囲気重視で円形の平屋根としました。これには塩ビのシーリングプレート(直径62mm)を塩ビ用接着剤で貼り付け、屋根中央には点検口と点検用足場もプラ材で貼り、全体にサーフェイサーを吹き塗装しました。
送油管は、ジオコレの「コンビナートFパイプセット」の太いパイプを適宜組み合わせ設置。貯蔵タンクから油が流出した際に被害を広げないための防油堤は、t5.0のスチレンボードを築堤上に切り出して表面にプラスターを塗って塗装しています。
●タンクローリーへの積み出し設備
この設備はジオコレ製品の「コンビナートD積み出し所」です。実物では高速道路の料金所のように横並びになっている例が多いですが、横長のボードで見た目の効果を得るため縦列に並べてあります。この設備に送油するための送油管も同じくジオコレの「コンビナートFパイプセット」を使って再現。
実物ならば脱線事故の際に被害を拡大させないために線路際に送油管を設置することは考えにくく、配管の地上露出は必要最小限として、残りは地下埋設とするのが安全上最も有効かと思いますが、模型的な演出として送油管を積み出し所にそれぞれつないでいます。おかげで油槽所の雰囲気が強調され、車両も引き立つ結果となりました。
●タンク車荷役用作業台
作業台のベースはグリーンマックスから発売された「パンタグラフ点検台」です。そのままの高さだと少々高く、タンク車には似合わないので7mmほど足を短くしたうえで、地面側にはt1.0プラ板を切り出し2枚貼り合わせて専用の台としました。
上部の作業台には転倒式のゲートを再現。これはタンク車の上部ハッチを点検する際に、ランボードに乗り移るための渡り板になるもので、模型ではグリーンマックスの洗浄台の手すりの足を切って使用。作業台の上段の手すりは黄色の警戒色を指しています。
赤い消火栓格納箱はゲート脇と抜き取り設備の脇には必ずついている印象を受けたので、t1.0プラ板を切り出して赤く塗り貼り付けました。色彩のトーンが低い油槽所の中でも目を引くポイントになったようです。
▲プラストラクト製の「パイプ材TB-1Φ1.2×375mm」を切り出して接続管を製作。
そして抜き取り装置ですが、プラストラクト製の「パイプ材TB-1Φ1.2×375mm」を使用。この製品は薄く細いプラパイプで、販売中に破損しないようにΦ0.8ほどの針金が中に通してあるのですが、これがちょうどノズル先端の「くびれ」のように見えるので、これに輪切り上に切れ目を入れ、パイプを残すところと完全に取り去るところを設け、表面に軽く接着剤を一塗りして銀色に塗り、台に差し込んで抜き取り設備としました。
この後専用台に作業台を接着し、これを線路へ簡易接着したら完成です。
こんなセクションがエンドレスにひとつあれば、お座敷運転ももっと楽しいものになるかと思います。また、これらを複数作れば大きな一つのレイアウトにすることも可能です。みなさんも自分の作りたい風景や欲しい風景、お気に入りの車両が最も似合う風景を小さなスペースで作ってみてはいかがでしょうか?
- フロアレイアウトに組み込んだセクションのイメージ。もちろん配置によっては、エンドレスの外側に出してパワーパックの近くに置きながらの操車や、油槽所へ向かう引込線が本線と分岐する個所に駅を設け、ディーゼル機関車からさらに電気機関車へバトンタッチ…なんて運転へも発展できるだろう。
- 昼下がり、とある油槽所に製油所からの石油を満載したタンク列車が到着した。機関車は引き換えに空荷となったタンク列車を再び臨海部の製油所に送り返していく。
- 200×900mmのボードをメインに線路終点部分は200×250mmの別ユニットで構成している。この終点部分を別のものに換えると、通り抜けの配線にもできる。
- パイプラインや荷役設備の中にたたずむタンク車とタンクローリー。周辺のストラクチャーによって車両たちも引き立つ。
- 石油タンクを囲う防油堤やパイプラインがストラクチャーに説得力を増す。
- 石油タンクには塩ビパイプを使用。塗装の喰いつきを良くするため表面を#600の耐水ペーパーで荒らしておく。
- タンクローリーの積み出し所の路面の白線はテープ材を貼って表現。
- 送油管の末端は地下へと管を降ろすコンクリート製の台でまとめられている。これはジオコレ「積み出し所」のタンクローリー洋のスロープを加工したもの。
- このジオラマでは一つの見どころの荷役作業台。基本的に石油をタンク車から抜き取るための作業台だが、接続パイプや消火栓、機器操作箱などのほか、それに携わる作業員が活気ある雰囲気を出す。
- プラストラクト製の「パイプ材TB-1Φ1.2×375mm」を切り出して接続管を製作。
- 油槽所の構内を眺めると作業台が貨車に近接しているのが分かる。また、タンクローリーへの積み込み設備は送油管が並行して3本並んでいる関係で、それぞれパイプ1本ずつずらす形で設置している。
- ここからは入換の一連の流れを解説。まずは本線(エンドレス)より石油を積んだタンク車編成(以後:編成A)が到着。
- 編成Aを到着線に止め、切り離した機関車は終点方向に向かう。
- 終点に機関車を引き上げ、ポイントを中線へと切り替える。
- 機関車はスイッチバックし中線を通り抜け、本線寄りへと向かう。
- 機関車は本線寄りのポイントをすべて超えたところで一旦停止。
- 機関車は再びスイッチバックして、ポイントを切り換え、荷役線に止まる石油抜き取りの澄んだタンク車編成(以後:編成B)へと向かう。
- 編成Bと連結し本線寄りへとからのタンク車を引き出す。
- 編成Bごとスイッチバックし、到着線の編成Aへと向かう。
- 編成Aと編成Bを連結して、再び本線方向へとスイッチバックして引き上げる。
- ポイントを切り換え今度は編成Aを先頭に荷役線へと押し込む。
- 荷役線へ編成Aを切り離し、機関車は編成Bを引き連れ本線へと戻っていく。これで一連の入替作業が完了する。
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