特集・コラム

シーナリー散歩 Scene:2-8 東武日光線・鬼怒川線 鬼怒川温泉駅

2021.03.21

取材日:’20.12.21
text & photo(特記以外):羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル

 レイル・マガジンで好評連載中の「シーナリー散歩」。全国の鉄道路線を訪ね、思わず模型にしてみたくなるような魅力的なシーナリーを見つけてご紹介しております。発売中の2021年3月号では東武鉄道日光線・鬼怒川線を掲載し、WEB編ではその補完をしておりますが、その最終回として、前回の鬼怒川線新高徳駅の2つ先となる鬼怒川温泉駅を見ていきます。

▲駅前広場のターンテーブル越しに、駅舎を見る。

 ご存じの通り温泉地として高い知名度と規模を誇り、今も観光特急「きぬ」「スペーシアきぬがわ」、それに「SL大樹」の終点として活気ある拠点駅(鬼怒川線自体の終点ではない)ですが、この駅も「SL大樹」運転開始によって大きく生まれ変わりました。その最大のトピックが蒸機の転向のための転車台(ターンテーブル)です。

▲下路式ターンテーブルで、ピットにはバラストが敷き詰められている。

▲線路は駅前広場に突き当たって、その先は旅館などが並ぶ温泉街だ。

 JR西日本から譲渡されたものを新設するのはいいとして、ではそれをどこに配置すれば一番効果的か? 東武鉄道ではここで素敵なアイデアを実現してしまいます。そう、「駅前広場に転車台を置けばいい」…と!

▲左手の曲線の先がターンテーブル。右手の行き止まりの線が1番線。作ろうと思えば、もっとホーム寄りにターンテーブルを設置することも可能なように思えるが、最も目立ち、かつ見物客に便利な位置まで持っていったと見るべき。

 機関車の転向シーンは、その列車の乗客やレイル・ファンにとっては最高のエンタテインメントです。山口線の津和野、上越線の水上、秩父鉄道の三峰口、大井川鐵道の新金谷・千頭、真岡鐵道の茂木などはそれをすぐそばで見学できることで人気ですが、基本的には「鉄道用地の中(もしくはそのそば)に人が行って見学」というスタンス。その点では本連載の初回で取り上げた下今市も同じです。しかしここ鬼怒川温泉駅は、「普通に人が居る空間に、蒸機の方がわざわざやってきてそこで転向する」のが特徴なのです。

▲ターンテーブルの見学エリアを備えた駅は他にもあるが、少々歩く必要があるなど、すべての乗客にとって気軽に見られたわけではなかった。ここではそれが実現している。P:遠藤イヅル

 元々広々とした駅前広場で、自動車進入禁止のエリアにターンテーブルを設置し、本線との引込線が接続されています。無論、柵には囲まれていますが、引込線が接続されている部分を除き、300度以上の範囲から見学可能。しかも列車から降りて駅の外に出た乗客は、徒歩10秒くらいで見学できるのですからたまりません。

▲「SL大樹5号」の2番線への入線シーン。

▲到着後、機関車を切り離す作業が行われる。

▲切り離された機関車が引き上げ後、折り返して3番線を後退。

▲逆方向に引き上げ→折り返して、ターンテーブルへの引込線へ。

▲駅前側から見た、機関車のターンテーブルへの進入。P:遠藤イヅル

▲ターンテーブルのほぼ全周から見学可能なのは、通常の鉄道用地内ではあり得ないことだ。P:遠藤イヅル

▲転向が終わったところを、ホーム側から見る。

 駅に到着した「SL大樹」は、先頭のC11+ヨ8000が切り離され、一度新藤原方向へ引き上げた後、後退して隣の番線を通って下今市方面へ。今一度前進して、駅舎外側斜め方向につながる引込線を通って転車台へ。アナウンスなどでショーアップされながら転向を終えると、また下今市方へ引き上げ、先ほど牽いてきた列車の今度は反対側に据え付けられる…というのが一連のシークエンスとなっています。また、補機のDE10(連結されない場合もあり)は、C11が転向中に機回しを行ってやはり編成の逆端に据え付けられるのです(当然ながら、DEは転向をしません)。

 このターンテーブルは、下今市のものと異なる下路式(かろしき)で、ピットが比較的浅く、また底面にバラストが敷き詰められていました。桁長は20m、1933年に三次駅に設置され、1999年まで実用されていたものとのこと。

▲駅舎内もリニューアルで大変快適・便利になっている。

▲2番線から、3・4番線を見る。方向としては、上り=下今市方を見ている。

▲「SL大樹」のレリーフの向こうに、人気の足湯がある。

▲東武バス日光が運行している「軌道線タイプ車両」。東武日光駅前で見た100形と同じ色で、各部の形態も電車らしく見せている。

 蒸機の運転施設にばかり目が行ってしまいましたが、駅自体も見ておきましょう。駅舎は一部2階建ての鉄筋コンクリート造りで、1964年に駅がこの場所に移転してきた時のものを大幅にリフォームしたようです。黒色を基調とした、SL列車に似合う外観と快適な設備を備えます。ホームは2面4線で、うち最も駅舎側の1番線は行き止まりの折り返し列車専用。「SL大樹」は取材時の5・6号は2番線に入線しましたが、3番線も入線可能となっており、蒸機2台体制が本格稼働したら2本がここで並ぶシーンを見られるかもしれません。

▲鬼怒川温泉駅から、下り=新藤原方向へ1.2kmの場所に、旧鬼怒川温泉駅の跡がある。写真中央部一段高いあたりに、10年ほど前まで公衆トイレがあったようだ。

 さて、サラッと前述した通り、この駅は開業こそ1919年と100年以上の歴史なのですが、今の場所に移転してきたのは1964年と昭和も後半になってから。それより以前にも1回移転しており、今となっては最初の位置がよく分からなくなっているようです。2回目の位置は現駅よりも1.2kmほど新藤原寄りで、今もそれらしい石積みや階段などが残されていますが、ちょっとそこにDRCが乗り入れていたとは信じがたいような狭い場所でした。

▲バス停名は「温泉中央口」。古くからの温泉地の中心はこのエリアのようだが、いかにも手狭な立地だ。この階段は以前存在した公衆トイレの利用者のためにも使われていた。

 とはいえ古くからの温泉街としてはそちらの方が中心地であったようで、今も渓谷の両岸に大規模なホテル・旅館の施設が多数建ち並んでいます。しかし旅行客の好みの変化や団体旅行の衰退などによって、多くの宿泊施設が閉鎖されてしまっているのが現状。「SL大樹」が再びこの温泉街に活気をもたらしつつあることを…と願うばかりでした。

▲イラスト:遠藤イヅル

 以上にて、「東武日光・鬼怒川線編」は完結です。次回からは「銚子電鉄編」をお送りいたします、お楽しみに。

🔶レイル・マガジン2021年3月号(447号)新刊情報

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