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特集・コラム

シーナリー散歩 Scene:2-2 東武日光線・鬼怒川線 下今市駅(後編)

2021.02.06

取材日:’20.12.21
text & photo(特記以外):羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル

 レイル・マガジンで好評連載中の「シーナリー散歩」。全国の鉄道路線を訪ね、思わず模型にしてみたくなるような魅力的なシーナリーを見つけてご紹介しております。発売中の2021年3月号では東武鉄道日光線・鬼怒川線を掲載しており、WEB編ではその補完をしていきます。今回は、前回につづいて両線の分岐点である下今市駅の施設を見ていきましょう。

▲転車台広場から、ターンテーブル越しに扇形庫正面を見る。午前中は逆光となる。

 前回は駅舎やホーム、跨線橋という旅客関連施設を中心に見ていきましたが、今回は「SL大樹」運転開始に合わせて整備された、駅併設の「下今市機関区」を見ていきましょう。営業上の要衝である当駅ですが、その歴史上、車両基地機能を持たされていたことはなく、開業から88年を経た2017年に初めて開設されたものです。

▲駅そばのスーパー利用時に、ついでに駐車場からスナップさせていただいた扇形庫。ガラス越しにC11 325が留まっている。

 駅本屋とは反対側、大谷川の方向に、ターンテーブルと3線の扇形庫が設置されています。ターンテーブルはJR西日本の長門市駅(長門機関区)から移設された上路(じょうろ)式のもの。1958年に設置され、蒸気機関車用としては1974年まで使用されました。桁長は20mと比較的大きなもので、国鉄時代にはD51形の方向転換にも用いられたとのこと。鬼怒川線の「SL大樹」は、運転区間の両端となる当駅および鬼怒川温泉駅両方にターンテーブルがあるため常に前向きで列車の先頭に立ち、折り返しの度にこのターンテーブルによる方向転換を行います。ただし、ATS装置の関係で常にヨ8000形と連結した状態での運用となるため、ターンテーブルにもその単位で乗ることになっています。

▲上路式だが、桁が中央部で深くなる形態ではなく、ピットもすり鉢状にはなっておらず比較的浅いタイプ。

 扇形庫はレンガ積み風で、当初は1番線を欠番とした2線式でしたが、昨2020年に増築。番線が示すように当初から予定にはあったプランですが、真岡鐵道から譲受したC11 325および現在修復中のC11 1(東武ではC11 123と名付けると発表済)が揃った暁には3両のC11がこの庫に並ぶ様子を見ることができるかもしれません。

▲本日の「SL大樹」先頭に立つC11 207の出庫シーン。

 この機関区の画期的なところは、さすがに観光列車用としてイチから計画された施設ということから、見学者用スペースが完備されていて、非常に近い場所から観察できることです。メインの跨線橋で駅本屋反対方向へ下りていくと、資料展示施設「SL展示館」、そして見学スペースである「転車台広場」があります。そして扇形庫の側面は見事にガラス張りとなっていて庫内の様子を観察することができるのです。訪問時には、ちょうど営業運転を間近に控えたC11 325が体を休めている状態でした。

▲ターンテーブルを背にして、「SL展示館」の建物や、渡ってきた跨線橋を見る。

▲C11 207出庫後、庫の中に残されたC11 325をガラス越しに見る。

 ひとつ気になるモノを発見しました。蒸機の給水に用いる給水柱(給水スポート)です。明らかにモニュメントで実用はされていませんが、説明板によるとかつて舘林駅構内に設置され、まさに東武の蒸気機関車に給水するために使われていたもの。用途を失った後も長年残されていたそれを、この下今市へ移設しモニュメントとしたのです。東武固有の蒸機関連施設としては貴重な生き残りですので、訪問時にはぜひ見てみてください。

▲舘林駅から移設された、給水柱のモニュメント。

 さて給水スポートがモニュメントだとしたら、この機関区では給水は一体どうやっているのでしょうか? SL展示館のスタッフの方に教えていただいたことには、庫内でホースから給水しているのだそうです。間合い時間の余裕があり、また走行距離がさほど長くもないため、急速での給水の必要がないということでしょうか。また、給炭設備も見当たりませんが、同じく庫内にて、石炭袋をクレーンで持ち上げてコールバンカー上で袋の底を抜いて給炭するのだそうです。

▲機関車の据え付けが完了し、発車を待つ「SL大樹1号」。

▲イラスト:遠藤イヅル

🔶レイル・マガジン2021年3月号(447号)新刊情報

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