取材日:’20.12.21
text & photo(特記以外):羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル
レイル・マガジン2021年1月号から新連載となった「シーナリー散歩」。全国の鉄道路線を訪ね、思わず模型にしてみたくなるような魅力的なシーナリーを見つけてご紹介しております。1月21日に発売になったばかりの2021年3月号では、連載第2回として東武鉄道日光線・鬼怒川線を掲載しました。このWEB編も「Scene:2-」として同線をまた駅ごとに見ていきます。
▲元々の木造駅舎を大規模リニューアルした下今市駅舎。
さて日光線と鬼怒川線、どちらも著名な観光地を終点とし、浅草からの看板特急列車が直通運転されています。なんとなく似たようなイメージを抱きがちですが、実は起源と性質がかなり異なり、醸し出す雰囲気も違います。
▲イラスト:遠藤イヅル
歴史が古いのは鬼怒川線(下今市~新藤原)の方で、実は開業時は軌間762mmの軽便鉄道、下野軌道でした。その建設目的は鬼怒川での水力発電のための建設資材輸送。その後電化・改軌を経て東武鉄道に買収されましたが、今なお急カーブが多い線形にその名残が感じられます。なお、新藤原までの全線が単線で、その先は野岩鉄道、会津鉄道に直通しており、東北の福島県までつづく長距離路線の一部という性質も持っています。
▲鬼怒川線の駅ホームに多い玉石積み様式。ここ下今市駅でも見かけることができた。
一方の日光線(東武動物公園~東武日光)は東武鉄道が主に観光輸送のために建設したもので、当初から電化複線でした。古くから国鉄(→JR東日本)日光線とのライバル関係が語り草で、両社が競うように豪華車両を投入した時期もありますが、現在は相互に乗り入れる協業関係になっています。終点の東武日光駅は文字通りのどん詰まりで、すべての列車は東武日光止まりとなります。
▲2番線に入線してきた鬼怒川線新藤原行の6050系。ホームを跨ぐのは新設されたバリアフリーの跨線橋。
今回はその2路線のうち、日光線は下今市~東武日光、鬼怒川線は下今市~鬼怒川温泉を取材。「SL大樹」「SL大樹ふたら」が走る区間と言い換えても良く、歴史の重みだけでなくSL列車を走らせるためのユニークな施設なども共に見てきました。WEB編の1回目では、両線の分岐駅、かつSL列車の起点である下今市駅を取り上げます。
▲出札口や切符の自動販売機周辺も、見かけ上は新建材の類がほとんどなく、非常にこだわったレトロ調となっている。
▲待合室も懐かしい観光ポスターなどが掲出され、レトロ旅気分を演出。
さてその下今市駅。最初の見どころは「昭和レトロ風」に改修された木造駅舎です。元は当駅開業時の1929年築と思われ、東武の中規模駅らしい落ち着いた風情で親しまれてきましたが、今回のリニューアルでは全体をブラウン系のシックな彩色に統一し、内部も可能な限りレトロ趣向で統一されました。例えば出札口付近もダーク系ステイン仕上げで、切符の自動販売機上に掲出された運賃表示の書体なども「昭和風」となっています。また、待合室には当駅のかつての様子を伝えるモノクロ写真や雰囲気を盛り上げる昭和時代の観光ポスターなどが貼られているのです。
▲改札口越しにホームを見ると国鉄型の客車…これはかなりグッと来る眺め。
改札はもちろん自動化されていますが抜かりなく茶色系の塗装が施されており、そこからホームに停まる14系客車を眺めると…国鉄時代を知る方にとってはたまらない郷愁を呼び起こすこと間違いありません。
▲駅の下り方(東武日光・新藤原方)に建っている木造跨線橋は駅開業時からの由緒正しいもので、文化財として保護されている。
改札入って左手には木造の跨線橋があり、これも駅開業時からのものがほぼ原形を保っていて、国の登録有形文化財に指定されています。通路部の壁面には、「レトロギャラリー」として沿線に多数存在する登録有形文化財の説明パネルが掲出されており非常に参考になります。この跨線橋はもちろんホーム間の移動のための実用として使用することも可能ですが、メインの通路は新設されたエレベーター式の跨線橋が完備されています。
▲入線してきた「SL大樹」。ダークブラウン系で統一されたホーム屋根や柱の彩色によって、国鉄型の車両が非常に引き立って見えている。
ホームは島式の2面4線で、ベンチや洗面台もレトロな形状をしたもので統一。ホーム屋根や柱が徹底してダークブラウン系でカラーコーディネートされているのも印象的でした。ホーム屋根はリニューアルに際して取り換えられているようですが、部分的に古レールを使用したホーム柱が残されているのも注目したいところです。
▲ところどころに残された、古レール製のホーム屋根柱。
次回は「SL大樹」のために新設された、当駅隣接の下今市機関区を取り上げます。