185系

特集・コラム

第3回 153系大量置き換え計画、始動

2021.01.06

■185系に153系併結用装備がつけられたワケ
 ローカル輸送では、朝の通勤時間帯に車両使用数のピークを迎えるのが一般的で、1970年代後半の東京圏においては、急行編成を動員してまで朝ラッシュの輸送力を確保してきた。
 その中でも、田町電車区配置の153系は伊豆への急行運用はもちろんのこと、通勤時間帯でさえ第一線で使用されており、置き換えに当たっては、この優等列車と通勤の兼用車両という難題を解決することが必要であった。また、田町電車区の153系電車の運用をつぶさに分析して置き換え計画を練って行くと、最初に見えてくるのは計画の実行過程で大幅な列車運休をしないかぎり、基本編成と付属編成を同時に置き換えることは難しいという事実だった。

153系5両付属編成(奥)と185系10両基本編成(手前)が併結された急行「伊豆」。

’81.4 東海道本線 根府川~真鶴 P:松尾よしたか

 新形式車両を登場させるときには、すべての組成を新形式車でそろえて運用することが本来であれば望ましいが、田町区の153系の場合、その日ごとに併結相手が変わっており、少しばかりの限定運用を組んでもまったく追いつかないことが分かった。
 このため、新形式電車となる185系は置き換え過程で、153系との混結は避けられないという結論となった。つまり、153系との併結運転を前提に計画せざるを得ないことから「協調運転設備」を搭載することは絶対条件であると整理した。このことが新形式電車の性能面での一部に影響を与えたことは否めない。もっとも新形式電車はローカル運用に使用することが避けられないので全体的性能は、この面でも大きな制約を受けることとなった。

▲現在は撤去されているが、横長の台座には153系・165系併結用のKE64ジャンパ栓が2組取り付けられていた。写真は大宮総合車両センター所属A6編成の東京方の先頭部。

’20.12.10 東海道本線 小田原 P:ふくしま・さぎす

■153系置き換え計画に立ちはだかる、さらなる「課題」
 核心の運用の検討に入ると、先述の通り当時の田町区153系の運用は、急行「伊豆」とローカル運用が混然一体となっており、しかもそれらは完全に分離することは極めて困難であることが分かった。
 さらに、東海道線の通勤輸送は、すでに113系が中心となっていたが、153系のデッキ付き2扉クロスシートの急行型を使用しているために、慢性的遅延状態を発生させていた。この解決のためにも可能な限り急行運用と通勤運用を分離、後者は113系など近郊型電車に置き換えるとの結論になった。そこで、大船電車区所属の113系と田町電車区の153系のダイヤを入れ替えて、当時の153系全体の運用を2グループに分離し、普通列車のみのものと、急行「伊豆」を含んだ運用グループを強引に作り上げた。
 しかし、2グループに分離した後の、185系の運用は急行が主体となっており、伊豆急下田や修善寺などの私鉄線内に滞泊するため、検査回帰を満足にできる運用が構成できなかった。そこで、一度組み上げた運用をもう一度バラバラにして条件を満たせる運用を曜日別、基本編成・付属編成別に組み上げ、なんとか完成させたのであった。

▲185系の配置に伴う形式別配置両数の変化。

 ただ、最後に突き当たった問題は取り替えにともなって捻出される、大量の153系電車の置き場所であった。東京南局管内では前年の大型ダイヤ改正で東海道・横須賀線に車両の大量増備がなされており、留置余裕はほとんどなかった。このままの状態では153系の取り換えはまたしても頓挫してしまうと思われたが、品川客車区の15両収容可能線を暫定的に電車区収容線として使用することで客車区と話し合いがつき、また東京方からも入線できるように改善して対応することとした。実際に日別の精緻な置き換え計画をつめていくと、これでも乗り切れない日も発生することが分かり、駅と協議のうえ、普段は使用していない蒲田駅側線などにも留置することとした。
 こうして取り換えに伴う捻出車の留置場所をなんとか確保できたことで、最後の難関が解決できる見通しがたったのであった。

▲上の表からも読み取れる通り、田町電車区では153系のほかに同区所属の155系も185系の登場によって全車置き換え対象となった。

’79.5.6 東海道本線 新子安 P:松尾よしたか

本文:大熊孝夫 要約・再構成:RM レイル・マガジン334号より

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