製作・写真:根本貫史

1990(平成2)年のデビュー以来、長らく185系と「踊り子」の双璧をなしてきた251系。2020(令和2)年3月を以って「スーパービュー踊り子」の名称と共に185系より一足早く営業運転を終えた同車だが、模型の世界でこの両雄を永遠に楽しみたいというモデラーも多いだろう。今回は185系と共に楽しめる模型ということでTOMIX製の251系2次車・新塗装の加工作例を紹介しようと思う。

■民営化&バブル好景気に登場
国鉄分割民営化が施行された1987(昭和62)年、世はいわゆる「バブル景気」真っ只中で、JR各社においてもその波に乗る形で新形式車両を続々と開発し、旅客サービスの向上に力を注いだ。とりわけJR東日本では、651系「スーパーひたち」を皮切りに、251系「スーパービュー踊り子」、253系「成田エクスプレス」と、民営化直後から立て続けに先進的な新型優等列車を登場させ、当時流行の「トレンディドラマ」にあやかり「トレンディトレイン」との愛称で呼ばれるほどの人気を博した。
車両の外観こそ21世紀を先取りしたようなデザインだが、足廻りは国鉄末期に登場した205系を基本とした「国鉄臭さ」が随所にみられるのも、この時期に登場した新形式の特徴であり魅力といえよう。
バブル景気に登場した「トレンディトレイン」世代の車両も、登場から20年が過ぎた頃から世代交代が始まり、251系については先輩格の185系よりも一足早い2020年3月13日をもって引退。早々に解体され、現存しない過去の車両となってしまった。
■実車引退に合わせて製品化
NゲージではKATOより実車デビュー直後に製品化され、そして今回は実車引退に合わせるようにTOMIXから製品化されるという、両社共にメモリアル的な意味合いの深い製品だ。その差およそ30年と、車歴並みの開発差があるのだが、最新技術によるHG仕様で高い完成度に仕上がっているTOMIX製品に対し、KATO製品もさほど見劣りしないということに驚いた。KATOにしても、当時最新のCAD・CAM技術をいち早く導入して開発されただけあって、その高い完成度は今をもって通用する。奇しくもKATOは1次車、TOMIXは2次車となるので、両製品ともに楽しむことができよう

■「塗装の延長」で質感表現
前述の通り製品は非常に高い完成度で仕上がっており、ディテールの添削といった加工をする余地は見当たらない。そこで今回は塗装による質感表現や室内演出を中心に手を加えてみた。質感表現はいわゆる「ウェザリング」となるが、今回は「汚れ」が本当に汚くならないよう、「塗装の延長」で仕上げる技法を用いてみた。

■全車に「乗客」を乗せてみよう!
251系の特徴である大型の連続窓は、車内の様子がよく見えるので、本作では座席の着色に加え、全車にフィギュア(人形)を配置して、レジャー特急列車らしい旅情を表現してみた。使用したフィギュアは「ミニチュア人形のYFS」の製品で、着色済みながら、低価格かつ大量にパッケージされている。今回のように全車に搭載したい場合には大変便利で、経済的に扱えるのが魅力だ。
フィギュアは情景に限らず、車内の乗客を表現することで「旅情」を演出する非常に効果的なアイテムとなりうる。特に251系のような窓が大きいレジャー特急などに搭載すると良いアクセントとなりうるので是非試していただきたい。
以下、ギャラリー画像にて詳しい加工個所を解説しているのでそちらも参考にしていただきたい。
- 伊豆の海を望みながら走る251系。お馴染みの組み合わせであった185系は1990年のデビューから2020年の引退までを見届けたことになる。
- 今回は塗装による質感表現を目指す。そのためまずは車体と足廻りを分解する。これらは別工程となるため、後の作業となる車体は車両ケースに収納しておく。
- 下廻りは台車と床板をそれぞれ塗装する。台車は車輪や集電版、動力台車のギアといった、走行に関わる重要な精密部品なので、写真のように製氷皿を使って仕分けると便利だ。
- 近年のTOMIX製品は、床下機器が別ユニットとなっているので塗装や加工がしやすい。塗装もユニット単位で施工していくので、各床板から外していく。
- タミヤのプラ角棒(5mm)に両面テープを貼り、そこに台車枠を一定間隔で並べる。間隔が狭いと塗料が回り込まないので隙間は十分に開ける。
- 下廻りの樹脂素材は塗料の食いつきが悪い素材が多いので、台車・床下機器共に下地処理としてプライマー「ミッチャクロン」を全体に拭いてから塗装を始める。
- 下廻りの色は、タミヤアクリル塗料「XF24 ダークグレイ」と「XF64 レッドブラウン」を1:1で調色したものを、エアブラシを使って塗装していく。
- パンタグラフもミッチャクロンを吹いた上から「XF24 ダークグレイ」で全体を塗装する。パンタを塗装する場合は必ず上昇状態にして、裏側まで確実に塗料が廻るようにする。
- 屋根は車体と一体なので、屋根以外をマスキングする。先頭車は展望室の屋根まで塗装するので、銀色の装飾部と両肩部にもマスキングを施す。
- 屋根の色は下廻りで調色したものに「XF1 フラットブラック」を数滴入れてトーンを落としたものを使用。屋根上中央は元の色が残るように、雨樋に沿ってグラデーションをかけるように吹き付ける。
- 塗装した屋根を見る。エアブラシによるグラデーション処理を中心とした「塗装の延長」による質感表現。技法としては「ウェザリング」であるが、実車さながらの汚れ具合はあまり意識せず、編成を通して均等なトーンになるよう施してあるのがポイント。
- パンタは摺板・碍子・そして屋根上配管にタミヤのエナメル塗料でタッチアップを施した。
- 高電圧系の機器に貼られている注意表記は、トレジャータウンのインレタ(TTL807-42)を当該機器に転写して表現。
- 茶色系で均等に「塗装」した下廻り。本来のウェザリングの場合は、さらに各部の汚れや陰影表現を追加するが、今回はあくまで「塗装の延長」に留めてある。
- ここからは室内の加工。まずは乗務員室内をダークグレーに着色し、銀河モデルの乗務員室仕切ステッカー(S-575)を透明ブラ板に貼って切り出したものを、ゴム系接着剤で固定している。
- 乗務員室仕切が再現された運転室を車外から見る。窓が大きいので非常に効果的だ。
- 乗務員室前方の側面ガラスは下部がスモーク処理されているので、自動車用のスモークフィルムを貼ってそれを表現。
- 前面とサンルーフの窓ガラスパーツは、黒の油性マジックで断面を塗って、白濁した肉厚を目立たなくした。
- 乗務員室と展望室の側窓は、断面まで印刷が廻り込んでいないので、ダークグレーでタッチアップすると効果的。
- 乗務員室扉や客扉、空調装置のルーバー部分はタミヤのスミ入れ塗料(ダークグレイ)を流し込んでディテールを強調。はみ出した部分は乾燥後にエナメル溶剤で湿らせた綿棒で拭き取る。
- 先頭車を組み立てる際は、銀色の装飾部とその中に収まるプリズムを一旦外してから床板を組み込むようにする。装着したままだとプリズムの位置が定まらず、破損する恐れがある。
- 先頭部はスカートのパネルラインにスミ入れを施し、密連の接点部をタミヤのエナメル塗料「XF28 ダークコッパー」で着色。
- 乗務員室扉下部の手掛けには「XF16 フラットアルミ」で着色した。
- 熱海・伊豆急下田方先頭車で1号車のクロ251形。この車両の2階はグリーン席で1階は専用のラウンジが備わり、ビジネスユースを意識した落ち着いた色調の内装となっている。
- 一方こちらは東京方10号車のクハ251形。2階は一般指定席で、1階は子供用のプレイルームとなる。
- モハ250形0番代。3~9号車はハイデッカー構造で奇数車のシートは青系となっている。
- こちらはモハ251形0番代。こちらは偶数車なので赤系のシートだ。
- サロ251形。2号車で1号車から続くダブルデッカー構造のグリーン車。1階は定員4名の個室が3室備わる。
- 1階のグリーン個室は表現こそ省略されているが、しっかり3室に仕切られている。本作では座席をダークグレー、個室の壁をライトグレーに塗装し、こちらもフィギュアを配置した。
- ハイデッカー車室内の妻面は、別パーツとなる妻板や、幌枠の構造物が意外と目立つ。
- そこでパソコンで自作した妻壁を貼って目立たなく処理してみた。
- こちらが施工後の写真。これにより印象は格段に上がる。
- 車内のフィギュアはまず乗務員から搭載。使用したのはミニチュア人形のYFSの「運転士サトウさん」で、車両のイメージに合わせて夏用を選択。運転仕様なので着席姿勢だが、シートの高さに合わせて腰付近でカット。
- 客席はフィギュアを配置する前に各シートにヘッドカバーを表現しておく。インレタやステッカー等の簡便な製品もあるが今回は覚悟を決めて面相筆で白のエナメル塗料を地道に着色していった。
- 今回は立ち姿のフィギュアを使用したので、すべて腰部でカットしてから配置する。
- シートへの接着はクラフトボンドを使用。カットしたフィギュアの切断面に微量の接着剤を塗布してから、ピンセットで配置していく。座席に収まりづらい姿勢や体形の場合は、干渉部分を適宜カットして調整。
- 1号車グリーン席の乗客は、なるべく上品で落ち着いた色合いのものを選択。1階ラウンジのソファは座面が低いので、胸元あたりまでカットしたものを配置した。
- 2号車1階の個室はグループ使用の設定で各部屋に3~4名を配置していく。フィギュアの配置は、個々のストーリーを考えながら性別や色味を選択すると楽しく作業ができる。
- 一般的に動力車はその構造上、床と座面表現に制約があるが、251系の場合ハイデッカーとなるので、その影響を受けずに配置することができる。
- 10号車のフィギュア配置状態を見る。人気の展望室はほぼ満席で、1階のプレイルームはなるべく小柄なものを選択して、ソファではしゃぐ子供と、通路には保護者を配置した。
- 賑やかな様子は室内灯を点灯していない窓越しでもよく見える。
- ハイデッカーの一般客室は、なるべく目立つように窓側を多めに配置している。
- 鮮やかな原色系の色味が多く一見派手に見えるが、暗所となる室内の場合はむしろ非常に効果的である。
- 情景と共に模型を見れば、そこには伊豆へ向かう楽しげな人々で賑わう車内が演出される。















































