取材日:’20.10.27
text & photo:羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル
レイル・マガジン2021年1月号から新連載となった「シーナリー散歩」。全国の鉄道路線を訪ね、思わず模型にしてみたくなるような魅力的なシーナリーを見つけてご紹介して参ります。連載第1回でお送りしているのは、JR東海の御殿場線。そのWEB編4回目では、前回の駿河小山駅から2駅上り方向へ進んだ山北駅を見ていきましょう。
▲典型的な木造駅舎で、新建材によるリフォームも受けていない。
この駅は、同線開業時(1889年)に、当初から開設された歴史ある7駅のうちの一つ。下り列車の場合ここから急勾配を登る区間となり、補機を当駅から連結するため山北機関区が併設され「鉄道の町」として栄えた歴史を持ちます。もっとも、本連載では何度も触れている通り、1934年に東海道本線の地位を熱海回りに譲って御殿場線となってからは静かな時を刻むようになり現在に至ります。山北機関区も、補機連結の必要性が薄れ、1943年に廃止。駅とその周辺の線路配置を見るとかつての栄華を偲ばせる痕跡がそこここに見つかります。
▲駅本屋の右手半分ほどは現在はほとんど使われていないようだ。
駅本屋は木造平屋建ての、模型ファンが思い描くような好ましいローカル駅舎。関東大震災で旧駅舎が被災し、その翌年の1924年に新造されたもので、実に築96年という歴史を持ちます。近代的な建材でのリフォームも受けておらず、大変雰囲気が良いものと感じます。駅員無配置ですが、地元NPOが業務を委託していて切符の販売などは有人にて行われています。
この駅本屋に面してかつてはホームがあったと思われますが、現在はレール資材置き場、もしくは単なる遊休地。これを挟んで島式の1面2線ホームがあり、跨線橋で結ばれています。例によってホームは十分以上の長さと、余裕のある幅があり、傘型屋根の立派な上屋もありました。そしてホーム中ほどの詰所と思われる建物には大正13年の財産票が。駅舎と同時期に新築されたもののようです。
▲この規模のローカル駅としては幅の広いホームと立派なホーム上屋を持つ。木製ベンチが維持されているのも魅力的。
▲ホーム上の詰所のような建物は、駅舎と同時期建造の好ましい木造建築。
そしてこのホームからは、駅本屋とは反対側にもう1本のホーム跡と側線を確認することができます。側線はあまり使われている様子がありませんが、往年は島式ホームで、この反対側にも線路があったとか。このホームは嵩上げなどがされる以前に使用停止されており、低いままの状態が残されているのが貴重かもしれません。
▲島式ホームから、駅本屋とは反対側に位置しているもう1本の島式ホームの跡。幅半分ほどは既に駅の敷地外になってしまっている。
長いホームをずっと国府津方向へ進むと、スロープで線路面に下り、構内踏切を経てこの駅のもう一つの出入り口に至り、線路の南側に通じています。かつては小ぶりながら「建物」と呼べる駅舎がありましたが、今は差し掛け屋根程度の構造物のみとなっています。
▲駅本屋とはホームを挟んで対角線の位置にある南側の小ぶりな入口。
この方向がかつて山北機関区のあった場所で、今は敷地も縮小されて保線車両置き場などで利用されていますが、何かの施設のコンクリート台座などが散見されました。
そのまま線路の南側を沼津方に進むと、D52 70が保存されている山北鉄道公園に着きます。この機関車にはテンダーにコンプレッサーが搭載されており、その圧縮空気の力で短距離走行が可能。イベント時などにその模様が披露されているようで、油光する下廻りに「実働機らしさ」が窺われました。
「シーナリー散歩」は「思わず模型のレイアウトとして作ってみたくなる情景」を探し歩くものであり、その対象は鉄道施設だけとは限りません。この山北駅の駅前商店街は実に味わいのある建物が今も現役! 典型的和風の商家から、モダンなモルタル造りの角店まで、時間に余裕があればぜひじっくり街歩きをしてみたい魅力がありました。
▲駅前商店街にあった魅力的な角店。右隣の和風建築との対比も好ましい。