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特集・コラム

「門鉄デフ」C57に牽かれて…会津若松発「ばんえつ物語」の旅

2020.11.26

取材日:’20.11.22
text&photo:奥村匠海

 夕暮れに出発し、ボックス席でほんのりと灯る車内灯の中、客車のゆったりとした揺れに身をゆだねる…そんな旅がこの季節だからこそできる列車がある。会津若松発の下り「ばんえつ物語号」だ。会津若松を15:25に発車し、夕暮れの阿賀野川沿いを進み新津に18:42に到着する。
 その車窓はまさに往年の客車列車を想起させる趣深い列車となっている。今回はそんな「ばんえつ物語号」の下り列車の乗車レポートをお届けしていく。

▲津川駅に停車中の「SLばんえつ物語」。その雰囲気はまさに「夜汽車」と呼ぶにふさわしい。

■旅の始まりは歴史ある城下町「会津若松」から

 「SLばんえつ物語」は1999年より運転を開始した観光列車で、C57 180が牽引している。新潟県の新津駅と福島県の会津若松駅を結んでおり、所要時間は3時間余りと乗車時間が長いのもこの列車の大きな魅力だ。また、JR東日本の「乗って楽しい列車」の一つとなっているほか、客車は2012年にリニューアルされ、グリーン車を連結するなどほかのSL列車とはまた違った特色を持つ列車となっているのも大きな特徴となっている。
 下り列車は、鶴ヶ城の城下町として知られる会津若松から出発する。会津若松駅の磐越西線ホームは頭端式となっているため、列車は推進運転で入線してくる。展望室内に前方監視員が立ち、ホーム上の駅員と乗務員が無線を使って連携し、停止位置を合わせる。その様子を多くの人が見守る中、ピタッと列車が止まると、多く乗客がドアへ向かい慌ただしく乗車していった。

 発車時刻になり、C57の汽笛が鳴ると客車特有の「ガコンッ」という揺れと共にゆっくりと発車した。

■「門鉄デフ」を装着したC57 180

 今回乗車したC57 180は、「新潟・庄内エリアアフターデスティネーションキャンペーン」の一環で通称「門鉄デフ」仕様となっており、12月6日の「クリスマストレイン」までこの姿で運転されている。

▲「門鉄デフ」仕様となった「SLばんえつ物語」

’20.11.22 磐越西線 鹿瀬~日出谷 P:奥村匠海

●「門鉄デフ」とは?
 整備の簡略化などを目的に九州の小倉工場で開発された徐煙板のことで、「門司鉄道管理局式デフレクター」や「小倉工場式切取除煙板」と呼ばれる。「門鉄デフ」の愛称の由来は、開発した小倉工場が門司鉄道管理局内にあったことに由来しており、「門デフ」などとも呼ばれる。
 国鉄時代からレイル・ファンの間ではその独特の形状から今なお人気が高いスタイルと知られてきた。

▲「門デフ」は主に九州の機関車に取り付けられていた。写真は当時、鹿児島機関区の人気釜だったC57 72

‘73.1.1 鹿児島機関区 P:山下修司
消えた車両写真館より

■夕陽が包み込み、列車は次第に夜の中へ

 会津若松を発車すると列車はゆっくりと、しかし軽快に会津盆地を進んでいく。遠くに磐梯山を眺めながら喜多方を発車すると、次第に阿賀野川の清流に沿って列車は走った。
 このころから日はすでに山にかかり始め、曇りの多い秋のこの地域には珍しく快晴だったこともあり夕陽が車内を包み込んだ。

▲秋の夕陽がサロンカーの車内を包み込んだ。

 列車は山あいに入り、次第にトンネルも多くなっていった。トンネルに入る前に窓を閉めるようアナウンスがされるのもSL列車ならではといえよう。トンネルの闇を抜ける度に外もだんだん暗くなり、17時ごろには夜の闇が車窓を包み込みトンネルと外の区別がつかなくなっていった。

 いよいよ、夜汽車の時間が始まった。

▲ほんのりとした車内灯が包み込む車内。夕暮れが早いこの季節だからこその楽しみといえるだろう。

■津川駅での給水と幻想的な風景

 津川駅には17:19に到着し、給水のため約15分ほどの停車時間を取っている。そのため、この駅での停車時間は実質C57 180の撮影タイムといった雰囲気だった。無論私もカメラを片手にその群衆の中でシャッターを切った。

▲津川駅での停車時間、多くの乗客がシャッターを切った。

 C57の吐く蒸気に光が当たり非常に幻想的な空間を演出してくれており、レイル・ファンのみならず多くの乗客がこの風景に魅了された。まさにこの季節だからこそ楽しめる停車時間といえるだろう。
 日没が早いこの季節は乗るにも、撮るにも活動時間が狭められるように感じてしまうが、今回は意外にも夜の楽しみ方を覚えたような気がした。夜の雰囲気に酔いしれながら新津までの残り1時間を堪能した。

 

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