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特集・コラム

あっ、よくみる光景!東海道本線の名シーンの一つ 薩埵峠 由比海岸の景色をNゲージ鉄道模型に凝縮した作品!

2022.11.12

text & modeling:礒田和宏
photo(特記以外):髙橋 隆

 東名高速道路上り線、清水ICを超え山間のト ンネルを抜けると今までの風景が一変、正面に 海が広がります。ドライバーの疲れを癒やすこの場所が由比海岸です。東海道五十三次の一つ として浮世絵にも残された絶景ですが、海に突き出す薩埵(さった)山は昔から地滑りを繰り返してきた山で、東名高速道路がトンネルを出て海の際を走るのも、この脆弱さゆえです。この地質的条件が、様々な地滑り対策を施された山裾を海岸線ぎりぎりに東名高速道路、国道1号線、東海道本線が通る、由比海岸らしい風景を作り出しています。

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■ベースサイズとその素材

 寸法は1,800×450mmで、中央で分割できる構造として運搬の便を考慮しています。長さはモジュール規格の関係で900mmの倍数から決定、幅は薩埵山の絶壁を再現できるよう、大きな山が作れる450mmとしました。

 ベースボードはt2.0の合板を15mmの角材 で補強したもので、最初はちょっと貧弱に感じ ますが、山の発泡スチロールや裏板などの接着 で補強され、完成時には軽量で丈夫なモジュー ルになります。最初にベース全体をペンキ塗装して、湿気によるソリを防止しています。

■線路

 モジュールの規格に合わせ3線としています が、由比海岸を走る東海道本線は複線のため、 1線は山の中に隠してモジュール両端部だけ見える状態としています。線路は表に出ている2線はPECOのPC枕木フレキシブルレール、山の中の1線はTOMIXのファイントラックを使用。モジュール中央の接続部だけは、ジョイナーの破損に強く接続時の保持性に優れたKATOユニトラックを使用しています。
 敷設はベースにt2.0のコルクを接着し、その上にゴム系接着剤で取り付けています。車両が緩いカーブをスムーズに走るように、すぐに硬化しないゴム系接着剤の特性を利用して、車両を転がしつつ、動きにブレがなくなるまで線路の調整を行ないました。ちょっとしたブレでも走らせるとかなり目立ってしまうので、この部分はこだわりました。

■地形の素材、作り方

 ベースの表面を海面とし、海の深さは色合いで表現しました。道路・線路は20mm高くするため、ほぼ全体に発泡スチロールを貼り付け、 その上にt2.0の薄ベニヤを敷いています。山は 発泡スチロールの積層で、地表は100円ショップで入手した軽い紙粘土で作っています。

■高速道路と橋脚

 橋脚はTOMIXの複線トラス橋の付属品を切り継ぎ、柱を円型にしたもの(この橋脚は自作の難しい微妙な曲線が出ていて、よく利用して います)。耐震補強工事は実物ではコンクリートの増し打ちする工法ですが、模型では再現が 簡単な鋼板パネル貼付工法とし、スジを入れたプラ板を貼ってそれらしく再現しています。
 高速道路はプラ板からの自作で、実物写真を参考にCADで平面図を描き、印刷したものをプラ板に貼って切り出していきます。橋の形式も実物通りトンネル側が箱桁タイプ、手前側が単純桁タイプと作り分けていますが、下から覗かないとわからない自己満足の世界です。

■消波ブロック(テトラポッド)について

 由比海岸を含む駿河湾は地形的な理由から高波による海岸侵食が問題となっており、海岸線には多くの消波ブロック(テトラポッド)が積まれ、この場所を再現するには外せない風景となっています。当初は市販のパーツを大量に購 入していたのですが、いつしかお店でも見かけ なくなり、入手に困っていたところ親切な友人が複製し、その型まで提供してくれました。それを元に、自分でもGSIクレオスの「Mr.シリコーン」で型を作り、ウェーブの「レジンキャストEXホワイト」で複製することにしました。レジンキャストは硬化時に熱が生じるため、連続して作業していると型が熱で反り返って隙間が生じてしまうので、一度に大量に作ることができず、けっこう根気が必要です。複製したものはバリを除去し、修正、気泡のパテ埋め、塗装、 ウェザリングを行ないます。複製=楽に大量生産というわけではありません。
 また、消波ブロックは一見バラバラに積んでいるようですが正式な積み方があり、テトラポッドの登録商標を持つ(株)不動テトラのHPにも記されています。積みたての状態を再現する場合は参考にするとより実感的になると思います。

■ワッフルみたいな形状が特徴的な落石防護工

 ここの情景で何と言っても外せないのは、由比側の絶壁部分の格子状のフリーフレームです。一般的によく見るタイプで見た目も印象的なわりに、鉄道模型ではほとんど作例を見かけません。どんな驚きの材料でいとも簡単に仕上げているのか、 と思われるかもしれませんが、実際は2mmのプラ角棒を手で曲げながら接着するという地道な方法で製作しています。紙粘土で整形・塗装した山の表面に10mm角の格子を下書きし、2mm角棒を現物合わせで曲げて接着…の繰り返しです。植木鉢の底に敷く「鉢底ネット」なる商品も流用できますが、自分としてはよりしっかりとした仕上がりが欲しく、こんな手間の掛かる方法を採用しています。
 他の防護工として擁壁はプラ板およびGMの石垣から製作しています。地滑り地帯なので後から補強・増設を繰り返しているため、いろんな形態があり、作るのも楽しいものです。

■その他のこだわりポイント

 線路際の小物は手を抜かず再現しています。たとえば、トンネルポータル廻りの配線、擁壁上部のネット、線路脇のケーブルダクト、他にも線路間のトラロープやガードレール上の矢印看板などです。一つ一つはとても小さく取付も面倒ですが、これの有無でレイアウト全体の印 象がだいぶ異なると思っています。自分も他の 方のレイアウトを見るときに「こんなものまで 再現しているのか〜」と思わされるのが楽しみ であり、感心させられるところですから、小さい小物ほどしっかり作り込んでいます。

■おわりに

 結構なデフォルメをしましたが、風景が特徴的なこともあって由比海岸らしいモジュールになったと思います。運転会ではモジュールレイアウトの一部として、自宅ではレイアウトルームのエンドレスの一部として活躍してくれることでしょう。

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今回で6冊目を迎えた「スーパーリアル 鉄道情景」。前回のvol.5から1年半が経ち、その間にも情景工作におけるスーパーリアリティを求める流れも少しずつ変化し、3Dプリンタをはじめとしたデジタル機材の導入がより一層進んだように思います。今から30年ほど前、パソコンの高性能化と低価格化が実現し、急激に一般家庭に広がっていったように、3Dプリンタの高性能化と低価格化も、一般モデラーにとっての購入のハードルを一気に下げ、そして工作室へ浸透し始めています。

今回はそんな3Dや緻密な工作技術をを活かして作られた作品のみならず、リアルな情景製作のための基礎知識や技術も紹介。Nゲージレイアウト・ジオラマの世界が広がる1冊になっています。

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