2021年12月、徳島県の阿佐海岸鉄道で「世界初」の営業運転を開始したDMV(Dual Mode Vehicle)。線路と道路の両方を走る機能を持つ旅客営業用車両という意味合いだが、その時に「何をもって『世界初』というのか」という点でファンの間でちょっとした議論が持ち上がった。確かに、戦前のイギリスや戦後の西ドイツなどで、定着こそしなかったもののそのような車両が営業運転を行った実績はある(本書でもかなり詳細に取り上げられている)。それと比べ、阿佐のDMVは「走行に必要な機能を自車内で完結させている(別体の台車などを必要としない)」「動作変更が自動化されており、オペレータ1名で操作可能」「その動作変更に要する時間が極めて短時間かつ確実」…といった要素を総合的に考慮しての「世界初」ということなのだろう。
本書では阿佐海岸鉄道に密着し、車両面、運用面のすべてを詳細にレポート。さらに白眉となっているのが製造元「NICHIJO」へのインタビューだ。このシステムは当初JR北海道が同社に開発を依頼したもので、当時のNICHIJOは黒衣的存在であった。JR北海道がプロジェクトから離脱したことで初めて語られる技術の裏話がたくさん散りばめられている。そして残念ながら、JR北海道が導入を断念した技術的理由については、今なお十分には解消されていないとも(阿佐海岸鉄道ではその問題がそもそも存在しない)。
前述のとおり、海外での類似前例についてや、バス車体を鉄道に導入したレールバス、保守用機械として普及している軌陸車など、関連するトピックを全網羅しているのも特徴である。
■発行:グラフィック社
■B5判/160ページ/2,530円(税込)