text & Photo:南野哲志(貨物鉄道博物館 理事)
▲遠く山陰から三重県までの長旅を終え、再び大地に立とうとしているワブ3。‘22.3.31
長年、貴重な車両の保存展示活動を行ってきた「加悦SL広場」(京都府与謝野町)ですが、2020年3月末で惜しくも閉園されてしまいました。
閉園後、展示車両の保存を願う声が多く、権利者の宮津海陸運輸、与謝野町、京都府、加悦鐵道保存会が保存車移設先の協議を進め、加悦鉄道ワブ1形3号有蓋緩急車の貨物鉄道博物館への譲渡が決まり、2022年3月末に移送が完了しました。
▲陸送は鉄道車両輸送のスペシャリストであるアチハ(株)が担当。‘22.3.31
■加悦鉄道ワブ1形3号有蓋緩急車とは
加悦鉄道の開業にあわせて、1926(大正15)年、梅鉢鉄工所で製造。1969年5月の全般検査後に休車となり、1977年以後は新設された「加悦SL広場」で展示されつつ、1985年5月の加悦鉄道廃止まで車籍はありました。
加悦SL広場から移送が完了した加悦鉄道ワブ3。‘22.4.1
現役時代は、蒸気機関車牽引客車や気動車と客貨混合列車として、特産品の丹後ちりめんなどの社線内小口輸送に活躍していたようです。
「一つ目小僧」的な監視窓が妻面(両端)に設けられている。左写真が坂田式自連装備の貨物室側、右写真がシャロン式自連装備の制動機側。
■ワブ3のみどころ
ワブの名の示す通り、車内に手用制動機(ハンドブレーキ)を備えています。制動手室は仕切りで独立しておらず、荷室端部でハンドルを回すとブレーキが掛かります。
▲制動手室は貨物室と隔てられていない。
自動連結器は坂田式(制動機側はシャロン式)、車輪は外輪保持環付松葉スポーク、軸箱の一部は給油蓋付タイプで、いずれも当館収蔵車では初の部品となります。
▲坂田式自動連結器。
▲外輪保持環付松葉スポーク車輪。
■今後は
加悦SL広場での保存展示時に修復が行われ、閉園後もシート掛により比較的綺麗な状態が維持されていますが、木柱端部等に腐朽箇所が確認されているため、部材取替えなど一部修復を計画しております。
本車の来歴や形式図、現役時代の貴重な写真などは、5月7日発売の「レイル・マガジン454 貨物列車2022」に掲載されますので、そちらもぜひご覧ください。
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