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特集・コラム

「駅」を訪ねて…峠を越える旅の始まり「奥羽本線 板谷駅(その1)」

2022.06.12

取材日:’21.8.30
text & photo(特記以外):羽山 健(RM)
同行取材:遠藤イヅル 取材協力:JR東日本仙台支社山形支店

 レイル・マガジンで連載した「シーナリー散歩」。WEB編は「『駅』を訪ねて…」に再構成してお届けています。2021年11月号では、特集「山岳路線の情景」の一環として、現役の勾配路線として有数の規模を誇る奥羽本線の板谷峠区間(福島~米沢間)を取り上げました。

レイル・マガジン2021年11月号(451号)書誌情報

 福島の「福」と米沢の「米」を取って、「福米(ふくべい)」などと呼ばれることもあるこの区間。信越本線の横川~軽井沢(通称:横軽、よこかる)、山陽本線の瀬野~八本松(通称:瀬野八、せのはち)などと並び、有数の難所として長年知られたところです。横軽亡き今、東日本地区では随一の勾配区間と言うことができるでしょう。

▲かつて板谷峠区間専用機として活躍したEF71。写真は山形新幹線開業直前の頃、50系客車による普通列車を牽引していた姿。
‘91.8.14 奥羽本線 米沢 P:田中一弘消えた車両写真館より)

 とはいえ、現在の板谷峠は山形新幹線が軽快に走り抜ける路線であり、1日わずか6往復の普通列車とて、特に勾配を苦にする様子も見せていません。新幹線開業に合わせて1,067→1,435mmに改軌されたこともあり、この区間を通過する貨物列車も存在せず、従って勾配専用の補機なども既にここでは見ることができません。

▲イラスト:遠藤イヅル

 では何を見ることができるのか…? 実は峠のクライマックスとなる赤岩(あかいわ)・板谷(いたや)・峠(とうげ)・大沢(おおさわ)の4駅はかつて4駅連続スイッチバックとして名を馳せていました。今はホームを本線上に移設することで廃止されたこのスイッチバックの痕跡こそが、この区間の今なお大いなる魅力なのだと言えるでしょう。当時ポイントを保護していたスノーシェッドはほぼそのまま残されており、旧駅跡も断片的に残存していて興趣をそそります。

 というわけで、今回の記事ではかつてのスイッチバック駅4駅のうち、2021年に廃止となってしまった赤岩を除く3駅をメインに、じっくり観察していくことに致します。なお、当区間は前述の通り山形新幹線が走る1,435mm軌間の区間ですが、扱いとしてはあくまで在来線(故に山形新幹線は「新在直通=新幹線と在来線を直通する」と呼ばれる)であることは留意が必要です。

▲福島~米沢を直通する普通列車は、現在はわずか6往復。ここでは719系の標準軌バージョンである5000番代の独壇場となります。
‘21.8 奥羽本線 福島 P:三ツ矢健太

 福島を出た奥羽本線はすぐに左へ大きくカーブし西進。笹木野、庭坂までは福島市街地で人家も多く見られますが、庭坂を出た後の巨大S字カーブから山登り区間が始まります。廃駅となった赤岩を通過し、山形県との県境を越えてすぐのところにその名も板谷駅があります。

▲板谷駅周辺には、坂道に沿ってちょっとした集落があり、商店も営業中。

▲集落外れのあたりにある、駅入り口の看板。ここから300m、線路沿いに歩いて行くのです。

▲複線用架線柱が見えているが、既に架線はありません。右手背面側にかつての板谷駅がありましたが、今はここに営業列車が入ってくることもありません。

▲歩行者用通路を歩いて行くと、木造のスノーシェッドが見えてきます。右手の線路は保線車用で、1,435mm軌間であり現在も使われています。

▲木材による側面は意外に隙間が大きく、日中は魅力的な陰影を醸し出していました。

 当駅周辺には今なおそれなりの集落があり、駅の入り口看板(ここから300mという表示あり)はその集落の外れ付近にあります。しかしそこから延びる歩行者用通路の先は保線車用の線路脇の、ある意味職員用通路のような小路。そしてその先には巨大な木造スノーシェッドがそびえているのです。このスノーシェッドはスイッチバック駅であった時代にシーサスクロッシングを積雪から保護していたものですが、今となっては乗客の通行を保護するのが主な目的となります。古レールの骨組みに木材による天井・側面となっており、板の隙間から漏れる外光が魅力的な陰影を醸し出していました。

▲スノーシェッドの中ほどで、歩行者通路と保線車用線路が緩くクロッシングしています。

▲スノーシェッドの屋根を途中で斜めにぶち切るように道路橋が通されています。

▲上写真の箇所を、今度は道路橋から見下ろしたところ。屋根は木材の上にトタンが張られています。

 ここには緩いS字カーブを描いて前述の保線車用線路が敷かれており、歩行者用通路と中央付近でクロスしています。正規の駅への通路ながら、このように誰も監視していない線路を歩いて越えていくのはなかなかの「トワイライト・ゾ~ン感」。さらに面白いのは、中央部の屋根をぶった切る感じで道路橋が上に被さっていること。密閉されておらずに隙間がある作りですが、スノーシェッドの目的が完璧な防雪ではないことを思えばそれも当然かもしれません。

▲1個目のスノーシェッドの出口。右手には36‰で上ってきた本線が寄り添います。なお、スノーシェッドは途中で増築されているようで、こちら側はH鋼が骨組に使われており近代的な外観となっています。

▲下り36パーミルを示す勾配票。写真の左手が福島方です。

▲1個目のスノーシェッドの屋上を道路から見下ろす。途中で断面形状が変わっており、奥側の方が築年数が新しいようです。

▲1個目スノーシェッドの出口の向こうに、2個目のスノーシェッドが見えてきました。そこが今の板谷駅なのです。

 この1個目のスノーシェッドを抜けると、左手から本線が36‰勾配で上ってきて、正面に見える2個目のスノーシェッドに飲み込まれていくのが見えてきます。まさにその2個目のスノーシェッドの中に板谷駅が存在するのですが…。この先は次回につづきます。

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