JR貨物は、老朽化が進む入換用の機関車の更新を視野に、2010年にハイブリッド式ディーゼル機関車HD300形を開発した。HD300形はJR東日本などで普及していたシリーズ式ハイブリッドシステムを採用しており、電動機のみで車軸を駆動させる電気式ディーゼル機関車である。
▲JR貨物HD300形 シリーズハイブリッド方式を採用した入換専用機関車。主電動機は1時間定格出力320kW、瞬間最大出力500kWと引き出し能力に特化させている。’13.5.5 東京貨物ターミナル P:寺尾武士
前回触れたように、ハイブリッド式気動車はエンジンのエネルギー効率が低下する低回転域で電動機によるアシストを用いて排出汚染物質の低減や低燃費化を狙っている。入換用機関車は駅構内で貨車を移動させて貨物列車の編成を組成するため、発進と停止を高頻度で繰り返している。つまり、低回転域での走行が多いためハイブリッド方式の導入によるメリットが非常に高いと言える。また、従来のDE10などは発進のたびにエンジン音を響かせているが、HD300形は発進時にエンジンを停止させることで、騒音の低減が可能となった。東京近郊など貨物ターミナル駅の周囲に住宅が立ち並ぶ環境も多くなり、国鉄時代から騒音の低減は課題となっており、開発に当たってはこういった環境面での配慮も目的としている。
機器類の構成はシリーズハイブリッド式気動車と同様で、カミンズ製汎用エンジンを基本とする小排気量のFDMF9Z形を用いたディーゼル発電セットを搭載する。減速時は主電動機を発電機として動作させ、発電抵抗によるブレーキ効果を得るほか、発電された電力で蓄電池の充電を行う回生ブレーキとなる。このシステムによって窒素酸化物は約6割減少し、燃費も約4割改善したという。このシステムが最も発揮される発進停止の回数が入換作業時は非常に多く、シリーズ式ハイブリッド車の真価が発揮されたといえるだろう。
▲FDMF9Z形 ディーゼル発電セットは定格出力270psのFDM9Z形と定格出力173kVAの主発電機を組み合わせたものを1基搭載している。 ’17.5.27 大宮車両所 P:寺尾武士
本文:児玉光雄 要約・再構成:RM レイル・マガジン433号より