
鉱石運搬とともに地域の交通手段でもあった紀州鉱山専用軌道。国鉄線との接続はなく、紀勢本線の阿田和駅からバスで1時間余という紀伊半島の山中に位置した。
今月のRMライブラリーは名取紀之・元RMライブラリー編集長による『紀州鉱山専用軌道-その最後の日々-』です。鉱山専用軌道というと、採掘現場までの坑道の中を走るトロッコをイメージされる方がおられると思いますが、この軌道は地域の交通手段としての側面も持つものでした。


機関庫や機関車の整備工場などがある軌道の拠点であった湯ノ口。閉山後、この付近は湯ノ口温泉の入浴施設となり様変わりしたが、ここから小口谷までの軌道は観光トロッコ列車として活用され、駅ホーム付近は面影を残している。

1978年当時の紀州鉱山専用軌道の概念図。太線の区間が便乗可能な客車列車が運行されていた「本線」。破線区間はすでに閉鎖されていた。

客車群は皆、ガラスをいっさい使用しない「無双窓」をもつ独特のもので、小口谷の工場で製造されたものであった。
名取さんが現地を訪ねたのは閉山間際の1978(昭和53)年3月のこと。この時、3日間にわたって現地で調査・記録され、この記録をベースに、その沿革などを含めてまとめられたのが本書です。ちなみに、タイトルに「ついに」と書きましたが、実は本書はRMライブラリーのスタート当初に製作着手しながら、実現することなく今日まだ温められていたもので、企画自体はRMライブラリーのスタート以前からあったそうです。正に満を持しての刊行、ぜひご覧ください。
