185系

特集・コラム

かつて一世風靡したジョイフルトレイン 今や懐かしのお座敷列車 その繁栄と衰退の歴史を振り返る

2026.04.02NEW

text & photo:児山 計

▲485系「ニューなのはな」。お座敷需要と座席需要を両立させるため、お座敷/ボックスシートの転換が可能だった。

■貸切列車で「走る宴会」

 国鉄では古くから、大口の団体輸送用に車内一面が畳張りの「お座敷列車」を保有していました。お座敷列車の車内では中央にテーブルを置き、皆が向かい合って食事をしたり、カラオケ装置を搭載して歌ったりして、観光地への道中を楽しんでいました。
 バブル期までは大口の団体需要はとても大きく、お座敷列車も文字通り東奔西走していたのですが、バブル景気がはじけた90年代になると旅行スタイルが変化し、お座敷列車は大きな変革を余儀なくされました。
 企業の団体旅行であれば、乗客はお互い勝手知ったる仲なので、隣にだれが来ようが多少パーソナルスペースが侵害されてもそれほど問題にはなりませんでした。しかし大口の団体輸送が激減し、お座敷列車も集約型の臨時列車に使われるようになると話が変わってきます。
こうした列車では旅行会社がツアー形式で乗客を募集し、一つの列車に乗り合わせて目的地まで催行します。つまり、自分の隣や向かいには、どこの誰ともわからない人が座るわけです。
 もちろんそれは新幹線をはじめとした定期列車でも同じことなのですが、パーソナルスペースがはっきりと区分されている定期列車の座席と異なり、境界があいまいなお座敷列車は心理的にも物理的にも気を使ってしまいます。

■1990年代に旅行スタイルが大きく変化

▲1999年に登場したお座敷列車「やまなみ」。しかしお座敷需要の低迷で2011年にリクライニングシートの「リゾートやまどり」に改造された。

 もともとお座敷列車は一般的な車両にあるようなひじ掛けや座席といった区分けを取り払って、多くの人とコミュニケーションが取れるのが売りなのですが、1990年代も中盤となると若い人の旅行スタイルは少人数のグループ旅行が主流となり、東武鉄道100系「スペーシア」のコンパートメントのような設備が好まれるようになります。寝台特急も解放式の寝台から、コンパートメント型が主流となっていきました。
 逆に大人数での団体旅行が根付いていたお年寄りからはお座敷列車の人気は衰えず、1990年代にはこうしたお年寄りの旅行客たちに支えられて「最後の輝き」を見せていました。実際欧風電車の485系「リゾートエクスプレスゆう」がお座敷列車に改造されるくらいには支持がありました。
 しかし、年を経るごとにお年寄りたちの支持も徐々に低下。1990年代も末期になると時代の変化にお座敷列車は完全に取り残されてしまったのです。
 筆者はかつて14系の「江戸」や485系「ニューなのはな」といったお座敷列車に乗車したことがありますが、全面畳敷きの車内はトイレに行くにしてもほかの旅行者の荷物をよけながら歩いて行かなくてはなりません。そして帰途の車内は多くの人が疲れから雑魚寝しており、見知らぬ人をまたいで車内を移動しなければならず、あまり快適とは言えませんでした。
 加えて畳は靴下との相性があまりよくありません。自宅なら地震でもない限り揺れませんが、列車は走行中それなりに揺れます。他人をまたいで歩いているときにポイントを渡って左右に揺れると、靴下が畳に滑って肝を冷やすこともありました。
 車内につかまるものがないというのも「乗ってみてわかるお座敷列車の不便さ」でしょうか。団体旅行ではさぞかし酔っ払った方もいらしたと思うのですが、無事トイレに行けたのかと心配になります。
 結果としてお座敷列車は一面の畳敷きからJR北海道キハ185系「くつろぎ」(1999年登場)のように中央なり片側に通路を設け、テーブルと座椅子を置いて2〜4人の小グループ単位で区分できるようにしたりしましたが、テーブルに座椅子というのは案外窮屈でしたし、揺れる車内で固定されていない座椅子というのはあまり快適な座り心地とはなりませんでした。加えて種車の老朽化もあり、床面全体が畳敷きの車両は2000〜2020年の間に引退が進みました。

■今でも体験できる「プチお座敷」

 バブル崩壊という経済的な事情により、日本人のライフスタイルが大きく変わったのが1990年代ですが、お座敷列車はそのライフスタイルの変化に対応できず、静かに消えていったといえるでしょう。
 しかし、畳敷きの車両は完全に消えたわけではありません。現在でも野岩鉄道の「やがぴぃカー」のように「お座敷スペース」として車内の一部を畳敷きにした車両は残っています。かつてのごろ寝ができるお座敷列車のような解放感こそありませんが、畳の上に胡坐をかいて、当時の旅行スタイルに思いをはせてみるのもいいかもしれません。

▲お座敷列車は高齢者を中心に1990年代末期くらいまでは人気を博していた。そのため485系「リゾートエクスプレスゆう」は欧風スタイルからお座敷に改造されている。

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