text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は黎明期のプラレールにおいて、少し変わったイメージを持つ存在の「ニューでんしゃ」を紹介します。この「ニューでんしゃ」、形こそ国鉄101系・103系を模したものですが、そのカラーリングはステンレスともアルミとも取れる銀メッキ一色となっていました。今回はそんな製品について詳しく迫っていきます。(編集部)
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1964年の東海道新幹線開業に前後し、今まで「プラスチック汽車」「電動プラ汽車」と言った国内ではあまり馴染みのない形状の車両をラインナップしていたプラレールが、実車モデルの製品を発売する方向に舵を切りました。1960年代後半には国鉄101系・103系をモデルとした「電動プラ電車」、1970年には蒸気機関車としてはお馴染み「D51きしゃ」、戦後に貨物列車用として多く製造された電気機関車であるEF15をモデルとした「でんききかんしゃ」が発売され、急速に実在車両のラインナップが拡充されていくことになります。
さて、この時代の実際の鉄道では、新しい素材でできたボディーの車両が徐々に一般化しつつありました。それこそステンレスやアルミでできた車両たちです。今まで普通鋼・全塗装が基本だった鉄道車両の中で、塗装工程を省略、または簡略化できるこれらのボディーを持った車両は、金属地が眩しい銀色の車体を輝かせており、鉄道車両の中でも目新しいものとなりました。
これら「銀色の電車」の普及を反映した製品がプラレールで発売されることになりましたが、これがまた「ザ・おもちゃ」といった風合いのものでした。

▲1971年に発売された「ニューでんしゃ」
「電動プラ電車」は101系・103系をモデルとしつつもおもちゃらしいアレンジが加えられ、車両は両運転台、色は実在しない赤色が存在、モールドはライトとベンチレーター・パンタグラフ程度と、実にすっきりした造型を持ちます。中央線等のオレンジバーミリオンをイメージした「赤」、総武線等のカナリアイエローをイメージした「黄」、山手線をイメージした「緑」の3色を基本とし、京浜東北線のスカイブルーをイメージした「青」も少数生産、計4色が出揃いました。
簡単な造型や成型色は技術面によるものでもありましたが、結果としてプラレールのメインユーザーである子どもの想像力を働かせるものになりました。「赤」は京浜急行や名鉄に、「黄」は西武や名古屋市営地下鉄に、「緑」は当時まだまだ走っていた東急や京王の旧型車両にも見立てられるといった形です。
1971年、プラレールは更に製品の拡充が図られます。151系をモデルとした「とっきゅう」、D51の客車列車運用をイメージした「D-51きゅうこうれっしゃ」、そして電動プラ電車を塗り替えた銀メッキ車体の「ニューでんしゃ」、113系風の塗装を施した「かいそくでんしゃ」が登場しました。
このうちの「ニューでんしゃ」はプラレール初となるメッキ車体、そして初となる「ニュー」を冠した製品となりました。銀メッキ車体はその後「ちかてつシルバーでんしゃ」「通勤電車」「近郊電車」に採用されており、その先駆けとなります。「ニュー」がついた商品名も「ニューひかり号」「ニューてんてつき」「ニューてんしゃだい」「ニュー坂レール」など、既存の製品に対する新製品という意味合いで使われることが多かったプラレールですが、この命名も「ニューでんしゃ」から始まったものとなります。

▲周囲の景色が反射するのが銀メッキ車体の特徴
「ニューでんしゃ」には明確なモデルはありませんが、当時国鉄から営団東西線への乗り入れ運用で使用されていたアルミ車体の301系が一番近いとされています。ただし前述のように子どもは想像力を働かせて遊ぶもの。301系にように見えるこの車両も、人によっては東急8000系に見立てたり、南海6000系に見立てたり、営団5000系や山陽2000系ステンレス車にも見立てたかもしれません。当時珍しかった銀一色の車体とは言ってもその幅は広いのです。
車体は「電動プラ電車」そのままとなっており、成型色がグレーにされメッキが施されている、単なるカラーバリエーションです。1974年頃までは両運転台仕様で生産され、箱が更新された後に今でもよく知られる「片運転台」仕様の金型へ変更。他の「でんしゃ」(「電動プラ電車」から改称)や「かいそくでんしゃ」と同じく、引き続きラインナップに載り続けました。しかしその2年後、1976年に再び箱更新が行われ、それに合わせて新製品もいくつか発売されました。
この時に新たに発売されたのが、485系がモデルの「L特急」、京成の「スカイライナー」、そして今まで発売され続けていた「ちょうとっきゅうひかりごう」の金型をイチから刷新した「ニューひかり号」といった、実際の車両をしっかりと再現した車両群となりました。「でんしゃ」各色はともかく、明確なモデル車両がない「ニューでんしゃ」「かいそくでんしゃ」はこのラインナップの中では浮いてしまうと考えられたのか、両車は箱を更新されることなく絶版となってしまいました。後を追うように実在しないカラーである「電車(赤)」(「でんしゃ」から改称)も絶版となり、本連載でもたびたび取り上げているリアル志向路線へ進むことになります。
こうして短期間の生産に終わった「ニューでんしゃ」と「かいそくでんしゃ」ですが、前者は先述したようにメッキ車体のノウハウが生かされ、後者は既存の型を使って色を塗り替えることで別の車両を再現するという手法を確立したことが特筆できます。後者に関しては「超特急ひかり号」の中間車が「とっきゅう」と「D-51きゅうこうれっしゃ」の客車に流用されたという例が別に存在していますが、塗装面での表現においては初めてという点が異なります。
プラレール発展を紐解くと、このような少し変わった製品でも後に影響を与えているということがよく分かるアイテム。そのうちの一つが「ニューでんしゃ」なのです。




