text & photo(特記以外):東條ともてつ

東北本線盛岡駅と釜石線釜石駅を結ぶ快速「はまゆり」は、料金不要な快速列車ではありますが、指定席車両が用意されています。そもそもこの列車自体、東北地方を駆け抜けた数々の急行列車をルーツとしており、往年の気動車急行の存在を今に伝える貴重な列車という側面もあります。
【写真】気動車急行の面影残るキハ110系快速「はまゆり」乗車した様子の写真をもっと見る!
■釜石発盛岡行き「はまゆり2号」の指定席に乗る
この快速「はまゆり」は、先述の通り指定席車両が連結されています。車内はリクライニングシートが装備されており、快速列車の中では設備は豪華な部類となります。もちろん自由席も連結され、この日は1・2号車が自由席で3号車が指定席、そのうち2・3号車はリクライニングシート装備のキハ110系0番代というオーソドックスな編成スタイルでした。この場合、着席の保証はできない分乗車券だけでリクライニングシートに乗れる2号車自由席は、座れたら少し「乗り得」な列車になります。

指定席の3号車シート。リクライニングシートとなり、デッキこそないが特急型にも負けず劣らずの設備となる。
さてこの快速「はまゆり」ですが、こうした指定席やリクライニングシートが今も残るように、元を辿ると急行「陸中」、ひいては東北地区に多数存在し、一部は多層建て列車として分割・併合もしていた急行列車群をルーツとしています。
いずれの急行列車群も東北新幹線開業を前後して徐々に整理されていき、最終的には急行「陸中」が民営化後も残ることに。これがのちにJR化後極めて稀な急行列車用の気動車が投入されるきっかけになっていきます。
■JR化後では稀な急行運用に就くことを考慮し製造されたキハ110系0番代
国鉄がJR各社に分割民営化された頃、新幹線網の拡充やマイカー需要の増大、車両の陳腐化など、さまざまな理由から急行列車というもの自体が徐々に下火になりつつあった時代だったため、JR化後に急行列車運用を前提に登場した車両というのは数少ないです。
そんな中、急行「陸中」用に投入されたのがキハ110系0番代でした。キハ100系・110系はJR東日本が老朽化した気動車の置き換えを目的に1990年から導入を始めた気動車で、この急行「陸中」運用に就くキハ110系0番代はセミクロスシートを装備した他番代とは異なり、車端部を除いてリクライニングシートを備えていました。この車内設備はデッキこそありませんが、急行型気動車の正統進化を思わせるものでした。
その後急行「陸中」は快速「はまゆり」に格下げされる形で廃止となり、当初考慮されていた急行運用こそなくなりましたが、今でも急行時代の名残を感じることができるのは、このリクライニングシートの車内があるからに他ならないでしょう。
■仙人峠越えやのどかな田園風景など車窓も楽しめる

釜石鉱山のホッパーの遺構を横目に陸中大橋駅を通過。ここから仙人峠を越えてゆく。
さて、そんな快速「はまゆり」ですが、釜石を発車してしばらくすると仙人峠越えのΩループ線区間に入っていきます。ここはその大きな標高差があることで有名で、上り(盛岡方面)列車だとまず今から渡る赤い橋が車窓左手に見え、陸中大橋駅を横目にトンネルに突入。その後トンネル内でぐるっと回って坂を駆け上り、先ほど車窓で見えた橋を渡る頃には陸中大橋駅前後の「今通ってきた線路」が見下ろせるという面白い区間になります。特段観光列車というわけではない快速「はまゆり」ではするっと通り抜けてしまう区間ですが、乗った際にはぜひこの目で楽しんでおきたいポイントの一つでしょう。
もちろんそれ以外にものどかな田園風景や岩手の山々も車窓から眺めることができます。訪れたのが夏も終わりの8月中旬であったため、沿線の田んぼは稲が青々としていました。これからは紅葉や雪景色なども楽しむことができるでしょう。
■新型HB-E220系導入で変化はあるか?

盛岡地区に導入予定のHB-E220系。
P:RM
とはいえこの釜石線のキハ110系も、JR化後の車両とはいえデビューから35年以上が経過し、老朽化が否めない状況になってきたのも事実です。そんな折、現在の主流となりつつあるハイブリッド式の新型車両HB-E220系の導入が決定しました。盛岡地区では東北本線(花巻~盛岡間)と、釜石線(花巻~釜石間)で2025年度下期より運行開始予定となっており、この快速「はまゆり」をはじめとした釜石線系統で活躍するキハ100・110系は近く見納めとなることでしょう。
またHB-E220系はオールロングシートなため、座席指定のある快速「はまゆり」自体も今後変化がある可能性があります。今も懐かしい気動車急行らしさを感じることができる快速「はまゆり」とキハ110系。その大変革の時は案外近いのかもしれません。




