text & photo:瀧口宜慎(RML)

▲線路上に在線し車籍のある状態の鉄道車両としては最古といわれる名古屋臨海鉄道のワ1。書類上では1889年製で、136年前から現存する車両とされる。現在は救援車として余生を送っている。
国内には最古といわれる電車や機関車が各地に存在するが、それは、それぞれのカテゴリーにおいて最古の車両であって、これらのすべての鉄道車両の中で現役最古参といえるのが今回紹介する名古屋臨海鉄道のワ1といわれる。「といわれる」としたのは、この車両の製造は136年前の1889年鉄道局新橋工場と言われているからだ。しかしながら、貨車は多くの場合、現役中に所有者、管理者がいくつか変わり、改造も受けて記録が曖昧になってしまっているものもあるのだ。
各種文献などを調べた結果、ワ1形の仲間が1900年代初頭には出揃っていると考えられ、少なくとも製造から130年ほど経っていることになる。ということは各地で保存蒸気として走るD51やC57といった蒸気機関車よりも50年以上も先輩なのだ。
さて、名古屋臨海鉄道のワ1は、日々どんな活躍をしているのか。流石に100年以上の前の貨車が何百トンという貨物編成の間につながって貨物を運んでいるわけではなく、事故時に緊急出動するための機材を載せた救援車という車両になっているのである。名古屋臨海鉄道さんでの見学ツアーのおり、その中身を見学できたので紹介しよう。

▲扉を開けると目に付くのは、天井からつるされた朱色のホイストクレーン。ほとんどの機材は重い金属製のため、その積み下ろしに使われる。

▲列車脱線時の復旧作業のため、ジャッキアップの足場や、線路外に車両を置くときなどのウマ代わりに使われる枕木。線路際の荒地に緊急車両を入れたりする時の整地に使われたりもする。

▲ワ1内部の反対側には発電機や油圧式ジャッキ、脱線復旧器、牽引用ワイヤー、スコップ、大型スパナなどが積まれる。脱線復旧器は鉄道模型のリレーラ―のようなもので、軽度な脱線ではこれを車輪の下に挟み込み、機関車で脱線した車両を引っ張り線路に戻すというもの。

▲ワ1の車端部妻面を見る。1925年以前の製造の車両ではネジ式連結器時代の名残で端梁にバッファーの差し込み穴が開いているものだが、この車両では木造車体から鋼製車体に更新する際に端梁廻りも改造されてしまったようだ。

▲ワ1の床下。車輪はスポーク車輪で、板バネの懸架はリンクなどなしにシューを介して直接台枠に懸架される。
さて、今回は名古屋臨海鉄道に現役で車籍の残る古参貨車ワ1を見てきました。
博物館などで保存されている車両も含めれば、当然ながらもっと古い鉄道車両は存在するが、本線につながった線路上に乗り、車籍が一度も抹消されることなく現役であるという点では最古参であるのが、このワ1なのだ。事故復旧車ということで、なるべく出動することが無いことを祈るばかりである。



