185系

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【最後の湘南色】しなの鉄道で孤軍奮闘する国鉄近郊型電車115系 リバイバルカラーのS3編成の軌跡!

2025.06.28

text & photo(特記以外):MSかぼちゃ(X:@MS3167)

 111系・113系・115系といった直流近郊型電車の研究を活動のメインとし、鉄道系サークル「日本かぼちゃ電車学会」の主宰も務め、動画や同人誌でその成果を発表しているMSかぼちゃさんの連載!「徹底研究!国鉄近郊型電車113系115系」。今回は113系・115系を象徴するカラーリングの一つである「湘南色」の編成に注目。2025年6月現在も現役で活躍するしなの鉄道の115系S3編成の軌跡をたどります!(編集部)


【写真】しなの鉄道115系S3編成の希少な「特徴」を写真でもっと見る!

 「湘南形電車」こと80系に端を発し、以降国鉄の直流近郊・急行型電車の象徴的塗色として様々な形式に採用された湘南色。
当然、113系・115系においても多くの車両がこの塗装を纏って登場し、形式を象徴する塗装の一つとなっています。
 しかし、塗装変更や廃車によってその車両数は年々減少の一途を辿っており、今年春にはJR西日本最後の湘南色塗装車であったオカD-26/27編成が引退。湘南色を纏った115系は残り1編成3両となってしまいました。
 今回は、湘南色を纏った最後の115系である、しなの鉄道「S3編成」について、その軌跡を振り返ってみましょう。

▲最後の湘南色となったS3編成。臨時列車にも度々充当されている。

‘17.11.5 S3編成+S16編成 豊野~牟礼 P:おれんじらいん

 後にS3編成となる3両は、1978年1月25日に川崎重工で製造されました。ロット区分にあたる製造予算は115系1000番代の第一次発注にあたる昭和51年度第2次債務、中でもこの3両はロット内の最終番号に位置しています。
 新製配置は松本運転所で、同区では5連と3連が存在した中で、3両編成のR56編成となり、篠ノ井線や信越本線を中心に運用を始めます。

 1983年頃には短編成高頻度化施策による5両編成の消滅のため編成番号をR13と改めます。さらに1986年11月には長野地区の115系が北長野運転所・松本運転所・神領電車区の3区に分散して配置されることになるのですが、この編成は松本所に残留します。しかし、編成番号がR2へと変更され、運用範囲も篠ノ井線や中央東線などの松本地区が中心となった他、碓氷峠区間やその先の高崎への乗り入れも消滅しています。
 また、民営化後にはイメージアップやサービス改善のため、1991年には初代長野色への塗装変更、1992年には冷房化改造、1994年には新長野色へ再度の塗装変更が行われるなど、長野地区115系に共通の項目ではありますが短期間で数度の形態の変化を経験しています。

 1997年にはさらなる転機が訪れます。長野新幹線開業により、並行在来線となる信越本線軽井沢-篠ノ井間が第三セクターのしなの鉄道へと移管されることとなりました。この当時、長野地区の115系は長野所所属車のみが高崎へ乗り入れるためのATS-Pを装備していましたが、譲渡対象はこれを装備していない松本所の所属車両となり、この編成も対象に選定されました。
 この編成を含んだ譲渡対象車は移管に先立つ形で1997年春に長野所へと転属。しなの鉄道線開業日である1997年10月1日付けで、JR東日本からしなの鉄道へと譲渡されました。
 これにより、編成番号を現在に続くS3に、塗装も「しなの鉄道色」へと変更しています。この塗装は当初はグレーの部分がガンメタリックで塗装されていましたが、後に現行の仕様に変更されています。
 また、この編成は開業時点で塗装変更が完了していた唯一の115系であり、その後も1年半ほどはこの編成のみがしなの鉄道色を纏って活躍していた点も特筆されます。

▲しなの鉄道色時代の姿。この当時は、数ある115系の1本に過ぎなかった。

S3編成 P:佐野洋之

 しなの鉄道においては、2004年から開始されるワンマン運転に際して対応工事が施工されているほか、2005年にはリニューアル工事も施工されています。これはJR東日本で施工されたものをベースとしており、補助電源装置のSIV化や車内の更新を行っていますが、台車の更新やパンタグラフの交換、化粧板の張替などの一部のメニューは省略されており、JR車より比較的原形に近い姿を保っているといえます。
 その後、暫くは大きな変化もなく推移していましたが、2017年に開催された信州デスティネーションキャンペーンに合わせた塗装変更企画の第2弾として、湘南色へと塗装が変更されました。
 塗装変更当初は高崎地区や岡山地区において湘南色の115系が現役で活躍していたほか、復刻塗装としては新潟地区や、同じしなの鉄道で遅れて登場した「弟分」ともいえる2両編成のS25編成が存在していましたが、この全てが2025年までに引退しているため、2025年6月現在では湘南色を纏った唯一の115系となっています。

 全体的には原形に近い雰囲気を残しているS3編成ですが、細かな点を見てみると改造点や特徴的な点も見つけることもできます。
 最たる特徴は2005年に施工されたリニューアル工事によるものが多く、外装ではモハ114に搭載されている補助電源装置のSIV化や、一部床下機器の更新が行われています。内装については座席の更新や床材の変更が行われていますが、先述したように化粧板の貼り換えは省略されているため、冷房準備車時代に使用されていた扇風機スイッチの跡も残存しています。パンタグラフについては、更新当初は菱形のPS23形が存置されていましたが、塗装変更後の2022年にシングルアームパンタのPS35形へと交換されています。
 他にも、ワンマン化工事によって車外スピーカーが増設されているほか、同時に号車札受も撤去されており、JR時代に撤去されたサボ受けと合わせて幕板部分は少しすっきりとした印象となっています。

▲MGがSIVに更新されたため、通風用ルーバーも撤去されている。

‘17.11.5 モハ114-1018 P:おれんじらいん

 また、これはS3編成の属する昭和51年度第2次債務に共通するものですが、非ユニット構造の乗務員室側面小窓が採用されている点も特徴です。
 というのも、この車両が発注された昭和51年度第2次債務は、115系1000番代の第一次発注だけでなく、115系300番代の最終発注も同時に行われております。このためこのロットではごく一部の仕様が115系300番代に合わせて製造されているのです。
 この次に発注されたロットよりユニット構造へ設計が変更されたため、この形態は過渡期に製造されたほんの数十両のみに見られる貴重な特徴であるといえます。

▲パンタグラフが交換された現在の姿。細かな点だが、信号炎管も撤去されている。

‘25.1.3 豊野〜三才 P:konikoni

 「115系1000番代第一次ロットの最終編成」「最初のしなの鉄道色115系」そして「最後の湘南色」。こうして見れば、奇しくも「最初」や「最後」といった言葉に縁があるS3編成。SR1系の投入により、しなの鉄道の115系は着実にその数を減らしており、この編成もそう遠くない将来には姿を消してしまうことが予測されます。いつか来る「最期」の時まで、無事に信濃路を走り抜けてほしいものです。

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