text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は1989年に発売された山手線をイメージしたようなオールインワンセットをご紹介します。操作をしないでも、駅に自動で停車・発車をする「自動発車駅」を主役に、山手線205系がまるで環状運転のようにぐるぐる周回するセットとなっています。(編集部)
【写真】セット限定色の踏切にも注目!自動発車駅セットの写真はこちら!
山手線と言えば、誰もが知る東京の代表的な環状路線です。全列車が各駅停車、そして高頻度運転で車両への負担がかかることからか、置き換えサイクルが約20年周期と他路線と比べて早いのも特徴です。
過去に運用されていた103系・205系・E231系500番台はもちろんのこと、現在のE235系までの各世代全ての車両がプラレールで製品化されています。このような路線であるため、子ども向けの鉄道おもちゃであるプラレールではベーシックなオールインワンセットの題材としは最適のようにも思えますが、実は山手線の車両が入ったオールインワンセットは過去2つしか存在しません。それが1989年発売の「通勤電車 自動発車駅セット」と2004年発売の「サウンド・ドア開閉山手線セット」です。
今回はこのうち、1989年に発売された前者の方に焦点を当てていきます。
▲205系山手線が入った「通勤電車 自動発車駅セット」
山手線は高頻度運転を行なっているため、都内を通る他のJR線の例に漏れず、各駅の停車時間が短いダイヤが組まれています。プラレールで同じような運転を再現しようとすると、基本的には自ら車両のスイッチあるいはストップレールを操作して停車・発車をさせることとなり、手放しで勝手に動いてくれるというわけにはいきません。とはいえ自動で列車が駅に停まって発車していく一連の姿は見てみたいものです。プラレールの開発においてこの点は特に要視されており、情景部品側・車両側でこの動きを再現したものが過去に幾度となく製品化されています。
1989年に発売された「J-30 自動発車駅」は、その名の通り列車が自動で発車するギミックが搭載された駅です。新しい情景部品が発売される際はアピール用にオールインワンセットも併せて発売される事が多く、自動発車駅もセットで発売されました。それが山手線205系「通勤電車」が入ったセットになります。
▲「自動発車駅」は白いホームに赤い屋根という「こうかえき」と同じ配色
「通勤電車 自動発車駅セット」は、この時期に相次いで発売された通勤・近郊電車系のセットの一つです。
この流れで発売されたセットというのが、開通したばかりの瀬戸大橋をイメージした「近郊電車(ブルーライン))DXレールロードセット」、東京近郊の地上駅のある路線をイメージした「ドア開閉通勤電車 切符ごっこ駅セット」、自動放送が鳴り止まない都心の駅を通る路線をイメージした「近郊電車(オレンジライン) おしゃべりステーションセット」の3つです。これらのセットはそれぞれ入っている電車(瀬戸大橋線・中央線快速・東海道本線)が走る路線をイメージして作られており、自動発車駅のセットもこの系譜にあります。
「自動発車駅」は両方向から入線しても動作する構造となっているため、このセットでは「ターンアウトレール」と「8の字ポイントレール」を組み合わせたデルタ線を組み込み、ポイント操作で自由に進行方向を変えられるという珍しいレイアウトになっています。この進行方向を変えられるレイアウトを山手線の外回り・内回りに見立てて「通勤電車」が選ばれたと考えられます。
「自動発車駅」は車両が停車すると内蔵された発車ベルが鳴り響き、駅の本体に設置されている回転式の看板が1枚分回転するとストッパーが解除され、発車するという動きを繰り返します。この動きが先述した山手線の高頻度運転を連想させ、実に車両とマッチしているような印象を受けます。
また、セットレイアウトとしては標準的なものですが「ブロックトンネル」「音入り踏切」も付属し、レイアウトに彩りを与えています。そしてこの「音入り踏切」は通常品とは異なり、黄色い成型色をしているセット限定のカラーリングです。
こうして登場した「自動発車駅」は9年ほどラインナップに乗り、1998年に絶版となりました。これ以降、現在に至るまで単品の情景部品では列車が自動的に発車する駅は発売されていません。
山手線E235系のセットは2024年8月現在発売されていませんが、このような山手線を連想させるようなセットの登場を望みたいところです。