text:RMライブラリー編集部
東京駅から50km圏の内房線五井駅(千葉県市原市)を起点とする小湊(こみなと)鉄道。近年は古風な気動車が走る路線、それも骨董品のような駅舎やお花畑の中を走るなどといった、いわゆる「SNS映え」する鉄道として注目されています。
特にここ数年は「房総里山トロッコ」の運転やJRからのキハ40形譲受など話題も豊富で、ファンの間ではもちろん、一般の人の間でも人気が高まっています。
▲首都圏近郊ながら風景の素晴らしさで注目を集める小湊鐵道。沿線風景も走る列車も彩りが鮮やかで写真映え間違いなし。
出典:RM LIBRARY 288巻『小湊鐵道 路線・沿革編』
五井駅から大多喜町の上総中野までを結ぶ全長39.1km・非電化の小湊鐵道。その雰囲気から、古くからある鉄道であることは想像できますが、着工はなんと100年前の1924(大正13)年! 五井を起点に房総半島を横断することを目標に、外房側の安房小湊までの建設を見込んで「小湊鐵道」という社名が付けられました。
最初に開業した区間は全線のおよそ2/3にあたる五井~里見間25.7km。建設には千葉に駐屯していた陸軍鉄道聯隊も演習として参加したとのことです。
▲絵葉書「鉄道第一聯隊 列車運転」。小湊鐵道建設工事終了時の試運転時に撮られた記念撮影と思われる。背後の機関車は、米国ボールドウィン社製の2号機関車。
絵葉書所蔵:白土貞夫
現在の上総中野までの路線が開通したのは1928(昭和3)年。車両は当初、アメリカやドイツなどから輸入された蒸気機関車が活躍しましたが、全通を機に現在の気動車の前身、ガソリンカーが導入されるなど内燃機関動力の採用も積極的で、これらガソリンカー~ディーゼルカーが旅客輸送の主役として活躍してきました。
▲1961(昭和36)年の登場以来実に60年以上もの間、小湊鐵道の主力として活躍してきたキハ200形気動車。
2010.2.6 五井機関区 P:白土貞夫
小湊鐵道を象徴する存在として、トップクラスに有名な車両はキハ200形ディーゼルカーです。1961(昭和36)年に登場して以来1977(昭和52)年までに14両が製造され、実に登場以来60年以上も小湊鐵道の主力として活躍しています。
▲「関東の駅百選」に認定されている上総鶴舞駅舎。小湊鐵道では開業時に建設された類似形態の駅舎が今なお数多く残る。
2020.10.6 P:白土貞夫
レトロさをウリにしているのは車両だけではありません。小湊鐵道各駅の駅舎は開業時ににほぼ同一の形態で建設されたものが多く、それらは揃って国指定登録有形文化財(建造物)の「小湊鐵道駅舎群」として認定されています。車両・駅舎揃って昔ながらの風景が展開されているため、映画やドラマなどのロケ地としても重宝されています。
▲沿線随一の景勝地、養老渓谷駅では、駅前を「逆開発」と称して元からの景観を取り戻す試みがなされている。
2020.10.6 P:白土貞夫
また近年注目を集めたのが、小湊鐵道が提唱する「逆開発」運動です。沿線でも観光客の乗降が多い養老渓谷の駅前において、それまで広場に敷き詰めてあったアスファルトの舗装を剥がし、土を盛り樹木を植えて「かつてそこにあった風景を再現する」という取り組みが行われました。この話題性より養老渓谷は再び注目を浴び、観光客も増加傾向にあるとのことです。
◆RMライブラリー288巻『小湊鐵道 路線・沿革編』が好評発売中です。
風光明媚な景色の中を古風なディーゼルカーが走るとして人気を集める小湊鐵道について、その100年の歴史を「路線・沿革編」および次号の「車両編」の2巻にわたって解説します。
また、外房側の茂原から奥野までが開通し、小湊鐵道の鶴舞町(現在の上総鶴舞)までの延伸をもくろんだものの営業不振で戦前のうちに廃止された「南総鉄道」についても、6頁にわたり解説しています。
■著者:白土 貞夫(しらと さだお)
■判型:B5判/48ページ
■定価:1,375円(本体1,250円+税)
◆書誌情報はこちら