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【引退】923形ドクターイエローの知られざる生涯 東海道最後の「700系フェイス」に注目

2024.06.22

text:鉄道ホビダス編集部

‘21.12.24 東海道新幹線 静岡~掛川 P:大谷真弘
(鉄道投稿情報局より)

 先日JR東海とJR西日本から正式に引退が発表された「ドクターイエロー」。その鮮烈な黄色い車体から、滅多にお目にかかることができない車両ながら知名度は高く、レイル・ファンではなくても、その存在をご存知な方は多いのではないでしょうか。「老朽化」という理由で引退する923形ドクターイエローですが、この車両の生涯について、振り返ってみようと思います。

【写真】「ドクターイエロー」名シーンの写真はこちら!懐かしの先代922形も!

■2001年に先代「ドクターイエロー」922形置き換えのため登場

▲923形T4編成の2号車。パンタグラフの奥、3号車屋根上に検測ドームが見える。

東海道新幹線 東京 ‘22.7.27 P:東條ともてつ

 1999年に0系が東海道新幹線で引退して以降も、しばらく活躍を続けていた0系ベースの「ドクターイエロー」922形。ですが、当時の東海道新幹線の最高速度は270km/hだった中、922形の最高速度は210km/hと、陳腐化は否めない状況が続いていました。さらに最高速度だけではなく、検測機器の精度・性能向上も求められていました。こうした現状を打開するべく登場したのが923形でした。
 外観からも見てわかる通り、当時JR東海で最新鋭だった新幹線電車700系をベースとしており、最高時速は270km/hへ向上しました。もちろん検測設備も21世紀仕様へアップデートがなされました。

 2001年にJR東海が導入したこの923形の編成番号は「T4」とされ、先代の922形「T2編成(JR東海所属)」「T3編成(JR西日本所属)」の続番となされたのも特筆されます。

■2005年に登場したJR西日本仕様の3000番代「T5編成」

▲JR西日本が投入した3000番代T5編成。

‘20.3.18 東海道新幹線 静岡〜掛川 P:大谷真弘

 922形T4編成が登場して無事に922形を完全に置き換え…とはなりませんでした。というのも、JR東海が923形T4編成で置き換えたのはJR東海に所属したT2編成だけで、JR東海で923形が登場した2001年以降も、JR西日本所属の922形T3編成はそのまま予備車扱いながら現役続投となっていました。
 すなわち、しばらくこのJR西日本の922形T3編成は、周囲を走る多くの車両が270km/hオーバーのダイヤで走っている中、最高速度210km/hで頑張り続けていたことになります。当時はまだ山陽新幹線では0系や100系が現役だったとはいえ、2003年までに営業用車両が全車JR型に統一されていた東海道新幹線にも晩年まで乗り入れていたことを考えると、その凄さがわかるかと思います。
 こうした背景のほか、JR東海が2005年度にアナログATCからデジタルATCへの更新する計画もあったことから、JR西日本でもドクターイエローの更新がなされることになりました。

 そして2005年に登場したのが923形3000番代T5編成です。番代区分はJR西日本の歴代新幹線車両と同じく「3000番代」が付与されており、ほとんど0番代T4編成と差異はないように思われます。
 ですが外観上の違いは実は存在しており、1号車923-3001の屋根上からじゃLCX化で不要となった無線アンテナの省略された反面、7号車である923-3007には機器搭載用の準備スペースとした四角い箱が新たに載っているほか、また博多総合車両所でのジャッキアップ時に使用するアウトリガーフックをかける穴が存在するなど、編成番号や車番以外でも、外観で判別が可能です。

■20年以上「ドクターイエロー」として活躍した923形

 ドクターイエローは高度な検測設備を持ち、ダイヤごとに月に数回〜3ヶ月に1回程度走らせる行程をこなしていました。また、それぞれ7両それぞれに役割が与えられており、1号車が「信号/通信/変電/電車線関係の測定」。2号車が「電力関係測定/トロリ線(架線のパンタグラフに接する線)の摩耗測定」。3号車が「観測ドームを装備/データ処理/測定用電源供給」。4号車が「軌道関係測定/データ処理」。5号車が「観測ドームを装備/多目的試験/測定用電源供給」。6号車が「打ち合わせ室装備/電力関係の測定」。7号車が「添乗者室装備/信号関係の測定」とそれぞれ分担されていました。こうした検測方法から、簡易的な検測機器を営業用車両に搭載し、回数を大量に走らせることで、ドクターイエローの代わりとするのが今後の計画です。

 気がつけば、かつての922形が東海道新幹線で見られる最後の「0系フェイス」であったように、700系なきいま、923形が東海道新幹線で見られる最後の「700系フェイス」となったのも時代を感じてしまいます。

 老朽化のみならず、こうした検測を取り巻く環境の変化などもあり、ドクターイエローは姿を消すことになります。国鉄時代から続く事業用の黄色い新幹線の歴史は、もうまもなく終わりを迎えようとしています。

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