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特集・コラム

本当にありそう!架空の「まつしろ交通」をリアルな鉄道模型で実現!

2024.03.30

modeling & text:梅原 亮・江川 拓
photo:羽田 洋

▲金戸山~湯の沢温泉御殿間モジュール (製作:江川 拓)

 夏に開催される「JAM国際鉄道模型コンベンション」をはじめ、様々なイベント出展してきた鉄道模型愛好会「麦レ~ル」の梅原亮さんと江川拓さんの2人は、16年前、今とは別の鉄道模型愛好会に所属していたといいます。その頃、架空私鉄の車両工作を進めていた梅原さんに江川さんが賛同。同じ設定の架空私鉄を舞台にしたモジュールレイアウトの製作を開始しました。その架空私鉄がここで紹介する「まつしろ交通」です。それでは皆さんを「まつしろ交通」の旅へ誘いましょう!(編集部)


■まつしろ交通について

 これは「麦レ~ル」の発足以前、まだ我々が別の鉄道模型愛好会に属していた頃に長野を舞台として製作を開始した作品です。なぜ長野県を走る鉄道にしたかというと、私が当時、信州へ鉄道写真の撮影や列車の旅に出かけていて、一時的にではありますが、この土地に明るくなっていたからです。鉄道の起点は県都、長野ではなく、同じ長野市内の松代地区を起点としました。

 まつしろ交通の歴史が始まるきっかけは、官営鉄道の手によって明治時代に長野県下に鉄道が敷かれたことでした。しかし、長野盆地を縦断する信濃(千曲)川を境に官営鉄道は西岸を通り、東岸は近代交通の恩恵からは取り残されたのです。これに対し信濃川東岸の発展を願い、地域の有力者達によって昭和初期に設立・開業したのがまつしろ交通の前身となる松代電気鐵道です。その後、路線の延伸・開業を繰り返し、戦前にはほぼ現在の路線の姿となりました。社名は1980年代後半、グループの路線バスや高速バス網の拡充、同時代にもてはやされたコーポレート・アイデンティティの再計画によって「電気鐵道」から「総合交通サービス企業」への脱皮というスローガンの下「まつしろ交通」に社名変更されました。

 まつしろ交通の路線は本線的位置づけの斑尾線、温泉地への観光路線の色合いの強い湯の沢線、そして長野市中心部への都市間連絡線計画の基、途中まで開業した大豆線の3線からなり、斑尾線と湯の沢線には特急列車や、朝夕には通勤ライナーが走っています。

 …といろいろ想定したこの鉄道、この地域に住んでいる方が見たら「ここは遠回りだ、この峠は鉄道じゃ登れない」など、叱られてしまいそうな路線計画ですが、あまり調査に時間を割きすぎると、模型を製作する時間がなくなってしまうので、細かいことは目を瞑りました。レイアウト時代設定は製作した2006年当時とし、その時代の車やバス、看板などをなるべく取り入れて再現しています。

■まつしろ中央駅(製作:梅原 亮)

 まつしろ交通の起点で、駅ビルの上層階は「MATUSIROデパート」の売り場になっています。駅ホームは3面2線で中央ホームが降車専用で両側ホームが乗車専用です。2線の内、斑尾線方面は2線、湯の沢・大豆線方面は1線のみからの発着になります。それだけ両線の列車本数の違いが伺えます。この駅から斑尾線では次駅の東条まで、湯の沢線では運動公園までが単線ながら高架線の区間です。

 模型では900×200mmのボードをベースに製作、線路の高さは他のモジュールの線路が敷かれる地面レベルを基準とし、この駅のモジュールのみ地面を下げる形で表現したので、勾配はないものの、このモジュールだけ高架線です。

 駅ビル一体型の駅舎は、1階部分をTOMIXの大型ビルのものを数棟分切り出し、加工して使いました。上部の建物部分は2006年当時カッティングプロッターでケント紙を切り出して組み立てたのですが、経年劣化がひどかったので、今回の撮影を前に、t1.0のケントボードからレーザーカッティングマシーンで外壁を切り出し、同じくレーザーカットでケント紙を切り出したものを内張りとして貼り、組み立て直して、屋上天面も同様にt1.0のケントボードにKATOの詰所の屋上のディテールパーツと、同じくKATOの信号所の屋上パーツを組み込んで、周りの完成品ストラクチャーなどと建物屋上のディテール密度を合わせています。

■金戸山~湯の沢温泉御殿間モジュール (製作:江川 拓)

 長野県を走る架空私鉄の沿線風景として最初に思い浮かんだのが、清流とワサビ田でした。そんな景色の中を列車が走っていたら面白いと思って製作を開始したのです。ところが完成した頃、このモジュールをメンバーの梅原氏に見せたところ、「いい風景なのだけど、ワサビ田は長野市の北部にはないみたいだよ」と言われ、2人で詳しく調べてみると、ワサビ田と古い水車小屋の風景は安曇野にある大王わさび農場という農園の中にあることがわかったのです。

 誰もが信州の風景として思い浮かべるようなシンボル的な風景を、実物の位置関係とそぐわない形で作るのも納得いかなかったので、斑尾線以外に篠ノ井から犀川上流へ向かう湯の沢線というものを2人で相談しながら設定したのが、「まつしろ交通」の湯の沢線の最初の経緯なのです。そのような訳で、架空私鉄の設定は大事なのですが、実のところこのまつしろ交通においては行き当たりばったりで決めている部分も多いのです。  さて、モジュールレイアウトのサイズは200×560mmで、シンボルの水車小屋は津川洋行の「農家・水車小屋組立キット」を使用。橋桁はTOMIXの単線トラス橋のトラス部分を外したものを使用しています。水面から顔を出すワサビ芽は細かくしたフォーリッジで表現しました。

■湯の沢温泉駅モジュール (製作:江川 拓)

 まつしろ交通湯の沢線は松代と大糸線豊科とを犀川沿いに結ぶ計画で建設されたものの、建設途中で、建設費の高騰や環境保全の問題などから、路線名である湯の沢温泉で終点となってしまいました。湯の沢駅からさらに奥に数百メートルほど建設予定線の名残が廃線跡のように残されていますが、保線車両を止め置く以外は使われていないようです。この区間の開業は遅く1960年代後半のこと。駅は築堤上に1面2線の構造で、この末端の数駅は立体交差を多く取り入れた踏切を持たない近代的な区間です。

 模型ではTOMIXの高架駅がベースですが、両端の築堤高さが決まってしまっていたので、高架駅を分解し一階地上部分の天地寸法を詰め、さらに線路部分も低く加工して、擁壁面はその高さに合わせて貼り直しています。


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 今回は情景の中でも特に絵になる「橋梁」をテーマにJR本線から大手私鉄、ローカル線など6つの実例を紹介。さらにはメーカーのプロモーション用ジオラマ作品のモデラーによる、プロならではの視点や表現方法なども紹介。そのほかSNSなどで人気のモデラの作品や、架空私鉄がテーマとしたレイアウトの作品も取り上げます。

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