modeling:工房Panorama
text:町山博則(工房Panorama)
車両協力:藤井良成
photo:青柳 明
▲戦前の高架駅のモダンな雰囲気を残す昼下がりの国道駅に単行のクモハ12がたたずむ。
■製作シーンの選定
本作は2007年に放送されたBSジャパンの番組『鉄道模型ちゃんねる』出演時に製作したもので、モチーフは個人的に思い出深い鶴見線・国道駅としました。シーンの構成に関しては幸いにもあまり悩むことなく作業は進みました。国道駅を主役とし、鶴見川の鉄道橋アーチは「1970年当時」を印象づけるための後づけの設定です。やはりNゲージという縮尺上の限界の中で、できる限り国道駅の姿を忠実に模型表現したいと決めていました。
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まずは工作期間の見通しからボードのサイズを300×900mm×2台の全長1,800mmと決めて、地図をそのまま1:150に縮尺し、駅周辺の表現範囲を確定するレンダリングから着手しました。すると鶴見川の川幅を若干狭めてやりさえすれば、モジュールの中に国道駅を中心にして名前の由来である第一京浜までが何とか収まることがわかりました。しかし、長さはともかく、カーブした駅の全幅は案外広くなります。鶴見川アーチ橋の終わりまでを、すべてモジュールパネル内に収めるのはなかなか厄介で、配置の決定までには時間を要しました。ちなみに今後また作り足せるのかどうかは自分自身にもわかりませんが、鶴見駅から東海道線、京浜東北線、そして京急をオーバーハングして第一京浜直前までのモジュール製作を予定しているため、今後の発展性を考えて両端レールはジョイント可能な構造にしてあります。
模型の見せ方という点では、まず主眼となる駅のスケールモデル化を行なうため、できるだけ建築模型的なアプローチを行ない縮尺通りに設計、なるべく見たまま、測ったままをその通りに製作する方向で設計しました。
製作にあたってデフォルメをどう行なうか?印象を擬縮して立体化するのが鉄道ジオラマの製作にあっては一般的です。見たままをスケールモデリングする…これはいささか安易で大雑把なアプローチ方法ですが、今回はあえて地図、実測、そしてロケ写真から拾い上げた数値の持つ説得力を生かしつつ、最小限のデフォルメでジオラマが成り立つようにした点が製作上のポイントとなります。
■一番表現したかったところ
ガーダー橋を渡って轟音とともに国道駅に滑り込んで来る電車、直下にはタイムトンネルの入口のようにポッカリと開いた駅の入口。その入口から構内に入ると古ぼけた街が続き、そこを通り抜けると裏口には魚河岸通りが横切り、その通りの先に鶴見川のゆっくりとした流れがあって、川に架けられた鉄道アーチ橋の姿が静かな水面に映る。アーチ橋のたもとには生活感あふれる漁師町が広がり、海に近いことをカモメの群れが教えてくれる。貝殻でできた浜に拵えた木製の桟橋には、無数の漁船が係留されている…国道駅の風景を語るとすればこんな感じになるでしょうか。
一番表現したかったところ…それは線路に沿って展開されるこんな風情を、小さなモジュールの中でいかに臨場感を持って表現できるのか?でした。そのためにも自分なりではありますが、できるだけ国道駅の全容を忠実に模型化することが必要でした。
■成功した点、苦労した点
▲工業地帯に一日の終わりを告げるように西の空へ沈んだ夕陽が、アーチ橋の上の電車をシルエット状に映し出した。
苦労した点は、実物から拾った寸法をどうNゲージの模型規格にすり合せるか…でした。車両を載せていない時、ストラクチャー単体で見た場合でも9mmのゲージ幅が広く不自然に見えないように複線間隔を設定し、高架駅上で緩くカーブする線路とホームとの車両限界を、これもまた不自然に見えない範囲に調整しました。結果としては若干ですが、建物の全幅を拡げ、建屋の高さもそれに合わせて調整することとなりました。印象的な構内の天井アーチも、よく見ると実物より幅が広めでアールが大きいことがわかると思います。
また、こういった収録ものは日程の制約はもちろん、途中途中に入る工程収録をこなすために工程別に部品を複数個作り、部品撮影と工作場面の収録を進行しているその裏では、実は本体の製作は先に進んでいたりします。少なくとも我々の経験ではその工程組みが一番良い手法だと思っています。要は料理番組の舞台裏と一緒ですが、単純に納期だけを決められた製作物より時間配分と工程処理には数倍苦慮しました。
なお、作り方としてうまくいった、成功したと感じとれるほどの成果は上げていないと思います。強行軍ゆえに番組終了時には達成感に隠されていましたが、今になって見返すとこれで良かったのかという迷いは尽きません、何せ架線も張っていませんし。強いて挙げれば公共放送の場を借りたことで少なくない視聴者の方々に観ていただき、長年生き永らえてきた国道駅に対し、ささやかながらもはなむけができたことが一番良かったと感じる点です。
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