text:MSかぼちゃ(X:@MS3167)
photo:おれんじらいん(日本かぼちゃ電車学会)
111系・113系・115系といった直流近郊型電車の研究を活動のメインとし、鉄道系サークル「日本かぼちゃ電車学会」の主宰も務め、動画や同人誌でその成果を発表しているMSかぼちゃさんの新連載!「徹底研究!国鉄近郊型電車113系115系」。今回のテーマは「115系3000番代」です。数ある115系一族の中でも異彩を放つ同車ですが、現在も瀬戸内色に復刻されたりと、その活躍には目が離せません。ここではそんな115系3000番代のこれまでを振り返ります!(編集部)
ここ最近急速に数を減らしつつある113系・115系ですが、山口地区の山陽本線においては2024年3月現在も115系が主力として活躍しています。そして、そのほとんどを占める「115系3000番代」は、117系によく似た2ドア車であることが特徴です。
【写真】懐かしの「広島快速色」も!115系3000番代の写真はこちら!
115系3000番代は113系・115系一族の中では最後に登場したグループで、広島地区の輸送改善のために1982年に登場しました。観光輸送や競合する広島電鉄・バスを意識した2ドア転換クロスシートが最大の特徴ですが、従来の115系とは設計が大きく異なっているため、Hゴムを廃した窓や201系などと同様の角形ベンチレーターなど、細かな部分にも差異が生じています。登場時の塗装も一般的な湘南色ではなく、クリーム色に青帯を巻いたものでした。この塗装はのちに他の車両にも採用され、「瀬戸内色」と呼ばれる広島地区を象徴する塗装となりますが、本来は115系3000番代とともに登場した、いわば「専用色」だったのです。
▲その後広島地区全体に広まる瀬戸内色も、かつては115系3000番代にだけ許されたものであった。
’06.12.29 クハ115-3113 山陽本線 広島
115系3000番代は、広島地区における輸送改善の切り札として導入されました。広島地区に限った話ではありませんが、当時の国鉄は地方における近郊輸送をあまり重視していませんでした。しかし、道路交通の悪化など地方を取り巻く状況の変化や、国鉄自体の採算性改善のために、その方針を転換することとなりました。
そこで広島地区に試験的に導入されたのが、両数を減らす代わりに列車の本数を増やす「短編成高頻度ダイヤ」です。このため、3000番代は当時の115系としては珍しい4両編成単独での運転を基本としており、電動車ユニットの数が減少しているため、パンタグラフ付きモハであるモハ114形3000番代には冗長性確保のためにパンタグラフが2基搭載されています(もっとも、4両編成でも問題はなかったようで、2基目のパンタグラフは基本的に降ろした状態で運用されています)。
「ひろしまシティ電車」と名付けられた短編成高頻度ダイヤは大成功を収め、後に広島以外の日本各地にも導入されていきます。3000番代は、国鉄における地方近郊輸送の在り方そのものを変革する先駆者となったのです。
115系3000番代の多くは先頭車のみが製造されました。先頭車が21組製造されたのに対し、対応する中間車はわずか6組(その後さらに6組が製造されて合計12組になりました)であり、他の15組は従来のモハを組み込むことを前提として落成しました。このため、この15組は先頭車が2ドア、中間車が3ドアとドア数が混在する編成を組んだほか、冷房を搭載しない冷房準備仕様となっていました。この中間車には当初111系を組み込んでいましたが、組み換えを経て冷房を搭載している115系に変わっていき、これと併せて冷房準備だったクハにも冷房が搭載されていきました。
1990年代に入ると、混結編成の中間車がさらに差し替えられます。この時組み込まれた中間車は、関西地区で余剰となった117系のモハを改造して編入した車両でした。確かに3000番代は117系とよく似ていますが、実際は車体各部から台車、さらにはパンタグラフの位置まで至る所に差異があり、似て非なる存在となっています。
115系3500番代と呼ばれるこの車両は、115系3000番代に組み込むことで編成のドア数を統一していきましたが、最終的に2編成だけは3500番代を組み込むことができず、ドア数が混在したまま2015年の廃車まで運用することとなりました。
余談ですが、3500番代は岡山地区にも投入されています。ですが、岡山地区の115系は全て3ドアの一般的な車両だったため、こちらでは逆に中間車だけが2ドアの編成を見ることができました(現存せず)。
▲左は117系改造の3500番代、右が3000番代。細かく観察してみると様々なところに差異を見つけることができる。
’22.9.13 N-18編成 山陽本線 下関
1993年ごろには、広島空港開港に合わせて塗装を「広島快速色」と呼ばれる白地に灰色と5色の帯のデザインに一新します。これは115系3000番代の専用塗装となりましたが、2004年ごろからは体質改善30N更新が施工され、再度塗装を「広島更新色」や「ミルクオレ」と呼ばれる白地に茶色と青帯を配したものに変更しています。また、2010年からは山陽地区における国鉄電車の塗装を濃黄色一色に統一していますが、3000番代も例に漏れず塗装変更が行われています。
登場以降、広島地区の主力として活躍してきた115系3000番代ですが、2016年には227系電車の増備により広島近郊の電車が3ドア車に統一されることになり、2ドアである3000番代は岩国以西に運用範囲が限定されることになりました。
現在、115系3000番代は一部編成が廃車されましたが、17本が山陽本線岩国・下関間の主力として活躍しています。また、そのうち7本は中間に115系3500番代を組み込んでおり、「WEST EXPRESS 銀河」と並び、今や数少ない117系の生き残りとなっています。さらに2023年から運用区間の全線で実施されているワンマン運転にも対応できるように改造が行われているほか、2023年10月にはN-04編成の塗装を登場時に纏っていた瀬戸内色に変更されており、注目を集めています。
▲瀬戸内色に塗装が復刻されたN-04編成。JRマークもなく、国鉄時代の姿を再現している。
23.12.17 N-04編成 山陽本線 下関
現在も具体的な置き換え計画は発表されておらず、115系の中でも異彩を放つ「末っ子」は、もうしばらくの間山陽本線山口地区の主力として元気な姿を見せてくれそうです。